Research Abstract |
亜鉛代謝を中心に膵広範切除後の早期から発生する脂肪肝の病態生理を明らかにし,かつ脂肪肝の発生予防と治療法の開発をめざすことを目的とし,以下の研究を行った。 <実験的研究> 体重10〜15kgの雑種成犬を用いて80%尾側膵切除を施行し,術後3日目より以下の4種類の食事を開始し,12週目に犠牲剖検し,亜鉛代謝と肝組織中性脂肪含有量などを検索した。 A群:標準食(亜鉛含有量4.4mg/100g) B群:標準食+膵酵素剤投与(パンクレアチン1g/日) C群:高亜鉛食(亜鉛含有量44mg/100g) D群:高亜鉛食+膵酵素投与(パンクレアチン1g/日) その結果,血清亜鉛はA群,B群では術前値より低下したのに対し,C群,D群では術前値より高値を示し,D群ではA群に比べて有意に高値を示した。肝組織中亜鉛濃度も血清と同様の所見を示し,かつ肝組織中性脂肪含有量はA群で最も高く,ついでB, C, D群の順に低値で,特にD群ではA群に比べて有意に低値を示した。亜鉛投与により,脂肪肝発生が阻止できる可能性が示された。肝におけるmetallothioneinの発現状況(PCR法)を検索すると,A, B群ではC, D群に比べて増強する傾向がみられた。 <臨床的研究> 膵頭十二指腸切除施行例11例(膵頭部癌6例,膵頭部膵管内乳頭粘液性腫瘍3例,下部胆管癌2例)を対象に,術後膵酵素補充療法(パンクレアチン6g/日)のみ施行6例と膵酵素補充療法に亜鉛製剤を併用投与(プロマック150mg/日)した5例で,血中亜鉛,脂肪肝の発生状況などを検索した。 その結果,術前の血清亜鉛値,術中採取した肝組織中性脂肪含有量は両群で差はなかったが,術後1〜2カ月目の肝CT値をみると,亜鉛非投与6例では4例にCT値が50HU以下(脂肪肝)を示したのに対して,亜鉛併用投与5例では1例がCT値50以下を示した。亜鉛投与により,脂肪肝の発生が予防できる可能性が示唆された。
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