Research Abstract |
亜鉛代謝を中心に膵広範切除後の早期から発生する脂肪肝および非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病態生理を明らかにし,かつ脂肪肝の発生予防と治療法の開発をめざすことを目的とし,以下の研究を行った。 <実験的研究1> 雑種成犬を用いて80%尾側膵切除を施行し,術後3日目より以下の2種類の食事を開始し,12週目に犠牲剖検し,亜鉛代謝と肝組織中性脂肪含有量などを検索した。 A群:標準食(亜鉛含有量4.4mg/100g) B群:高亜鉛食+膵酵素投与(パンクレアチンIg/日) その結果,血清亜鉛および肝組織中亜鉛濃度はA群ではB群に比べて有意に低値を示し,肝組織中性脂肪含有量はA群ではB群に比べ有意に高値で,組織学的にA群では脂肪肝を認めたが,B群ではほぼ正常に保たれた。 <実験的研究2> 実験1と同様のモデル(A群,B群)に,術後に微量のエンドトキシンを静注して,NASHの発生の有無を検討した。微量エンドトキシンを静注することにより,A群では肝機能障害を発生し,脂肪肝炎に類似した組織像を示したが,B群ではこれらの変化を認めなかった。 <臨床的研究> 膵頭十二指腸切除後の症例で,1例にNASHの発生を確認できた症例を経験した。本例は術後,1〜3週間MRSA腸炎を併発し,食事摂取が不能で,経静脈栄養を中心に栄養管理を施行したところ,術後1ケ月目に高度の肝機能異常とともに全身状態の増悪を来した。腹部CT上著明な脂肪肝を認め肝生検にてBrunt分類2期のNASHと診断された。本例は感染がセカンドヒットとなり,脂肪肝からNASHが発生する可能性を示唆するものと考えられた。
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