Research Abstract |
本研究では,悪性胸膜中皮腫における腫瘍内浸潤B細胞に由来する抗体の認識する腫瘍抗原の同定を試み,診断や治療に有用な抗原を選定することを目的としている。平成18年度は,5症例の胸膜中皮腫患者を対象に解析を行い,11種類の腫瘍関連遺伝子を同定した。また5症例の中で2症例より胸膜中皮腫の細胞株を樹立した。平成19年度は,単離したこれらの遺伝子の胸膜中皮腫における発現解析や,患者血清中の抗体価の測定を行った。すなわち,胸膜中皮腫組織と正常組織におけるmRNAの発現をRT-PCR法で調べたところ,6つの遺伝子は胸膜中皮腫組織で過剰発現しており,腫瘍関連抗原と考えられた。その6つの腫瘍関連抗原のうち,4つは自己血清にしか抗原反応を認めなかったが,しかしThrombospondin-2と機能不明の遺伝子であるGene-Xは,他家の胸膜中皮腫患者の血清中にも抗体を検出することができた。悪性胸膜中皮腫患者12名と健常人19名の血清を200倍から25000倍まで希釈し,Phage plaque assayにて抗原抗体反応を判定し,血清抗体価を評価した。Gene-Xでは,5000倍希釈の血清で判定したところ,胸膜中皮腫患者で12例中7例(58.3%)に抗体を検出でき,健常人では19例全例で抗体検出ができなかった。またthrombospondin-2は1000倍希釈で判定したところ,胸膜中皮腫患者で12例中11例(91.7%),健常人で19例中1例に抗体を検出した。次に肺癌患者での血清抗体価を測定したが,Gene-Xでは,47例中全例で抗原抗体反応の検出ができず,thrombospondin-2は47例中1例にのみ抗体を検出した。この二つの遺伝子に対する抗体は,健常人および肺癌患者に比べ胸膜中皮腫患者血清にて有意に高い抗体価を検出することができ,血清学的な診断のためマーカーとしての応用が可能であると考えられた。今後は,これらの腫瘍関連抗原遺伝子が,免疫療法の標的として利用することが可能か検討する予定である。
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