Research Abstract |
[目的]ウイルス性結膜炎の新しい治療薬の探索的研究を目的として,種々の薬物のアデノウイルスに対するin vitroの増殖抑制作用をウイルス学的に検討した。[方法]対象薬物は既存の抗ウイルス薬として,抗HIV薬の中から次のように選択した。核酸合成阻害薬およびプロテアーゼ阻害薬の中から,ザルシタビン,スタブジン,ネビラピン,インジナビル,アンプレナビルの5薬材を用いた。解析にはアデノウイルス培養細胞として,A549細胞(ヒト肺癌細胞)を用い,アデノウイルス3型,4型,8型,19型および37型の標準株及び臨床分離株を用いた。各薬剤の細胞毒性の確認のために,MTS法で50%細胞障害濃度CC_<50>を算出した。次に,ウイルス増殖抑制効果を算出したCC_<50>の約1/5および1/10(または1/20)濃度を基準にして,A549細胞各ウエルに加え,5%CO_2存在下,培養を行った。6日間培養後、各ウエルの上清と細胞を回収し,DNA抽出キットで抽出した。LightCyclerを用い,アデノウイルスヘキソンに対するプライマーセットを使用するReal-time PCR法でアデノウイルスDNA量を測定し,薬剤非添加群とのウイルス量を比較し,アデノウイルス各血清型に対する各薬剤の抗ウイルス効果を求めた。ウイルス増殖の検討には従来,培養細胞の細胞変性効果を指標としたEC_<50>が用いられてきていたが,今回の研究では,ウイルスを直接定量的に解析できるReal-time PCR法を用いて解析した。[結果]抗アデノウイルス作用のある抗HIV薬はザルシタビンおよびスタブジンであり,いずれも核酸系逆転写酵素阻害薬であった。一方非核酸系逆転写酵素阻害薬,プロテアーゼ阻害薬の薬剤はいずれもアデノウイルスに対しての明らかな増殖抑制作用は見られなかった。[結論]ザルシタビンおよびスタブジンはヒトのアデノウイルス結膜炎への安全な治療点眼薬となる可能性が示唆された。今後は,アデノウイルス感染動物における治療効果の検討などを行う必要があると考えられる。
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