Research Abstract |
ラット顎下腺の主導管を結紮し,一週間後に解除した後に生じる腺房再生実験系を利用して,熱ショック蛋白質Hsp27の発現を経時的に免疫組織化的に明らかにした。さらに細胞増殖および腺房細胞分化とHsp27の発現の関係を時間的空間的に明らかにした。その結果,Hsp27は導管結紮解除直後には全く認められなかったのに対し,3日目に腺房分化の発芽部の基部に発現し,7日までその数が増加したが,その後は分化した腺房細胞の増加と反比例するように減少し,14日目に腺房の分化がほぼ完了した時には再び認められなくなった。細胞増殖をPCNAの発現をマーカーに調べて比較すると,Hsp27の発現は,時間的には増殖が終了し,腺房細胞分化マーカー(GRP-α)が発現するまでのごく短期間に,一時に発現することが明らかになった。Hsp27陽性細胞はPCNA陽性細胞とGRP-α陽性細胞とはその時間的空間的な分布が重ならないが,初期にはごく一部が増殖細胞と,後期にはごく一部がGRP-α陽性細胞と重なる場合があることが示された。 以上の結果から,顎下腺の腺房再生においては,Hsp27は増殖期から分化期への移行期に限局的一過性に発現することが明らかとなった。 さらに同実験系で幹細胞マーカーの一つであるSca1の局在を調べたところ,Sca1は顎下腺再生時に腺房分化の発芽部基部に局在し,その分布域がHsp27や増殖細胞の分布域と一部重なることが認められた。また,正常顎下腺において,Sca1は介在部導管細胞の一部に局在することがわかった。 これらの結果を総合すると,腺房の再生過程では,増殖する未分化な細胞にある腺房幹細胞が増殖を停止して分化過程に入るとHsp27を発現し,その後分化が進行すると今度はHsp27の発現が停止することが推定された。このことは,本研究課題の当初の仮説がほぼ正しいことが示された。現在さらに他の幹細胞マーカーの発現を調べ,この仮説を証明するべく検討中である。
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