Research Abstract |
平成18年度は,亜鉛製剤の破骨細胞の分化抑制作用を検討するための前準備として,破骨細胞前駆細胞として研究に用いるRAW264.7細胞の機能発現の及ぼす破骨細胞形成促進因子および炎症性サイトカインの影響について検討した。RAW264.7細胞にinterleukin-1α(1L-1α),receptor activator of NF-κB ligand(RANKL)およびmacrophage colony-stimulating factor(M-CSF)を作用させ,成熟破骨細胞のマーカーとして捉えられているcarbonic anhydrase II(CA II),cathepsin Kおよびmatrix metalloproteinase-9(MMP-9)の遺伝子ならびにタンパク発現を調べた。その結果,RAW264.7細胞のCA II, cathepsin KおよびMMP-9発現は,IL-1αの添加によって増加した。しかし,このIL-1αによる発現状には,同時に添加するM-CSFではなくRANKLに強く依存していることが明らかになった。これらの結果から,破骨細胞の分化ならにその機能発現を評価するためには,炎症性カインとRANKLを同時添加する必要があることが示唆された。この知見を踏まえ,本研究課題である亜鉛製剤の破骨細胞分化抑制作用を検討するための基礎的実験条件を定めることができた。なお,本研究結果は,学術雑誌に掲載された(Life Science, 80,1311-1318,2007)。 亜鉛製剤の破骨細胞分化抑制作用を検討するため,平成18年度は骨芽細胞側からのアプローチを行った。株化骨芽細胞(MC3T3-E1細胞)を用い,炎症生サイトカインで強い骨吸収促進作用を有するtumor necrosis factor-α(TNF-α)を作用させ,骨芽細胞自身が産生する破骨細胞分化促進因子であるM-CSFとRANKLの遺伝子発現をreal-time PCR法で調べた。その結果,TNF-α添加によってM-CSF発現は約5倍に上昇したが,亜鉛製剤の10,100および300μM添加によってその発現量は有意に全焼した。一方,RANKL発現にはM-CSFで見られたような亜鉛製剤添加による影響はほとんど認められなかった。これらの結果から,炎症性サイトカイン刺激によるM-CSFの発現を亜鉛製剤が抑制することが示唆された。次いで,TNF-αによるM-CSF発現の増加には,IκBのリン酸化が関与しているのではないかと考え,IκBのリン酸化に及ぼす亜鉛製剤の影響についてWestern blot法で検討した。その結果,TNF-α添加によって増加したIκBのリン酸化は,亜鉛製剤(300μM)添加によって明らかに減少することが認められた。これらの結果から,亜鉛製剤は,細胞のIκBのリン酸化を抑制することでM-CSF発現を減少させていることが示唆された。さらに,RAW264.7細胞をM-CSFおよびRANKL存在下で分化させた際,亜鉛製剤を添加するとTRAP陽性の成熟破骨細胞の形成が有意に減少することも明らかになった。
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