Research Abstract |
ラットを用いて,鉄ニトリロ三酢酸(Fe-NTA)の腹腔内投与による,脳の酸化反応をHO-1遺伝子の発現を目安として調べた。また比較のために反応経路が比較的明らかなLPS(lipopolysaccharide)を同様に腹腔内投与して,脳の反応を調べた。Fe-NTA(Feとして15mg/kg)の投与により,大脳皮質,海馬,視床下部においてHO-1遺伝子の発現レベルが,投与から6時間後で有意に上昇し,12時間後には投与前のレベルに戻った。LPS(2mg/kg)の投与により,HO-1遺伝子は海馬と視床下部においては,Fe-NTA投与後に比較してやや弱いレベルで発現し,皮質においては有意な変化を認めなかった。IL-1β遺伝子はLPS投与により,いずれの部位でも著明に増加したが,Fe-NTA投与後は海馬において有意な上昇を認めたのみで,しかも発現量はわずかであった。またIL-6は,LPS投与により海馬と視床下部で有意な増加を認めたが,皮質では有意な変化を認めなかった。Fe-NTAを投与した後は,海馬と視床下部で有意に増加したが,皮質では有意な変化を認めなかった。まとめると,Fe-NTA投与後は,LPS投与に比較してIL-1βおよびIL-6遺伝子の発現が軽微であるにも関わらず,HO-1遺伝子は顕著に増加していた。つまり脳内でのHO-1遺伝子の発現においては,これら炎症性サイトカインに影響されない経路が存在することが示唆された。 HO-1の発現をin situ hybridization(ISH)により調べたところ,海馬の錐体細胞,視床下部の室傍核,などにシグナルの発現が見られ,局在と細胞の形態からHO-1遺伝子はニューロンに発現した可能性が高いと思われた。視床下部と海馬を対象として,脂質の酸化物であるhydroxynonenal(4-HNE)の発現をdot blotにより定量したところ,視床下部において,4-HNEが有意に上昇していた。 以上のことから,Fe-NTAの腹腔内投与により,脳に酸化反応を惹起することが強く示唆され,反応は脳内の部位によって異なる可能性が考えられた。
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