2008 Fiscal Year Annual Research Report
ベトナムの日本ODA案件実施地域における少数民族の土着知識継承に関する研究
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18606003
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新江 利彦 Kyoto University, 地球環境学堂, 助教 (60418671)
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Keywords | ベトナム / 伝統文化 / 少数民族 / 先住民族 / ODA / 国際協力 / 土着知識 / 歴史学 |
Research Abstract |
本年度は、2008年8月21日から9月5日まで16日、9月15日から9月20日まで6日間、10月20日から10月27日まで8日間、12月3日から12月22日まで20日間、1月18日から2月11日まで25日間、3月8日から3月16日まで9日間、3月19日から3月28日まで10日間の計7回、90日間のベトナム調査(含む学会発表12/5)を行い、ベトナム社会主義共和国トゥアティエンフエ省、ホアビン省、コンツム省の日本ODA事業実施地域における土着知識の保存継承について考察し、またクアンナム省カトゥ族やビントゥアン省チャム族の土着知識について主として文献史料から考察を行った。 トゥアティエンフエ省アルオイ県における調査からは、昨今の地方政府及び地元業者によるハイブリッドキャッサバの導入により、在来種が急速に減りつつあることが判った。森林利用・伝統民家建設や音楽芸術に関しては比較的よく継承されていたが、樹種の名称に関する知識や山菜の知識の継承は廃れつつあった。また織物について、カトゥ族伝統のものが廃れていく中で、JICA事業によってタオイ族様式の織物技術が導入され、新たに伝播していく状況が見られた。 ホアビン省タンラク県における調査からは、幼苗農法や稲魚農法、稲家鴨農法などの伝統農法などの持続可能な農法が、当局の誤解によりいったん廃れたのち、NGOの奨励によって復活している状況が見られた。(ホアビン調査はODAではなくNGOの調査であった) コンツム省コンプロン県における調査からは、日本のODA機関であるJICAが導入した風土に合わない多収量米の栽培が、その初期的な成功にもかかわらず受け入れられない状況が見られた。また、1871年に書かれた漢文史料と比較して、その風俗習慣が基本的に変わらずよく残っている状況が確認できた。なお、そこに書かれた旧暦2〜3月に行われる(旧暦では毎年変わる)コンツム地方の正月とは、新暦3月20日ごろの春分を指していた可能性があるが、現在はこの正月風俗は廃れ、ベト族同様に旧正月にとってかわられていた。 これらの調査研究内容は、2009年5月29日までに科研報告としてまとめて、文部科学省に提出する予定である。 このほか、クアンナム省カトゥ族について、そのダム水没移転に対する抗議文書を入手し、その分析内容をNPOメコンウォッチが主催するメコン座談会で発表し、東洋大学『学術フロンティア報告書』に寄稿した。ビントゥアン省チャム族とカンボジア・コンポンチャム省チャム族の王家年代記を入手し、その分析内容を東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・タイ文化圏における山地民の歴史的研究会で発表した。また、同省のいくつかのチャム族集落について、その母系氏族の地主の把握について、阮朝が母系氏族向けに漢字姓氏を与えることで管理していた可能性が高いことがわかり、そのことについて第3回国際ベトナム学会議において報告を行った。
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