Research Abstract |
複数核種の利用状況に関して調査を行った.臨床利用可能なサイクロトロンで生成できる核種は,炭素-11,窒素-13,酸素-15,フッ素-18であり,その核種から合成された薬剤が利用されている. 現在,本邦で臨床上利用されている核種は26種類ある.そのうち,日本アイソトープ協会とサイクロトロン核医学利用委員会が「成熟薬剤」として認定した薬剤は9種類ある.(炭素-11の利用:メチオニン,N-メチルスピペロン,酢酸.窒素-13の利用:アンモニア.酸素-15の利用:酸素ガス,一酸化炭素ガス,炭酸ガス,水.フッ素-18の利用:フロロデオキシグルコース).炭素-11ではメチオニンを利用したアミノ酸代謝による腫瘍の評価,酢酸を利用した心筋の評価が行われている.また,N-メチルスピペロンを利用したドパミンD2受容体の画像化により脳機能の評価を行っている.窒素-13では,アンモニアを利用した心筋の評価が行われている.酸素-15では,水,炭酸ガス,一酸化炭素ガス,酸素ガスを利用して,脳および心筋の評価が行われている.フッ素-18では,フロロデオキシグルコースを利用した糖代謝の画像化により,腫瘍,脳,心筋の評価が行われている.これら9種類の成熟薬剤のうち,FDGのみがデリバリ可能な薬剤であるため,PET装置を導入しているすべての施設で9種類の薬剤の検査が可能であるわけではない. これら核種の多くは,腫瘍の評価を行うための検査に利用される.その際,腫瘍の形態とPET画像で表示される領域との一致性は診断に影響を与える.したがって,PET画像の分解能に関する調査も行った.ここでは,PET装置の画像再構成アルゴリズムに依存する解像特性,PET装置の検出器に依存する解像特性が存在することが分かった.PET検査は全身を対象とした検査として広く知られたが,複数核種を用いた診断は,腫瘍が発生した単一の臓器や部位に限られることが多かった.したがって,成熟薬剤9種の正常マップの構築とそのための高解像度PET画像の必要性が示唆された. また,近年ポジトロン製剤が撮像可能なSPECT装置が認可された.そのため,本研究ではPET装置のみならずポジトロン対応ガンマカメラにも範囲を広げて情報収集を行い,フッ素-18を用いたSPECT装置におけるデーベースの可能性についても検討した.その結果,SPECTのイメージングはPETより分解能は若干低下する傾向にあるが,国内の稼働台数はPETの約6倍,1300台程度あることから,SPECTのデータベースが可能にれば,非常に有用なものになると考えられた. 分子イメージングの基礎として,本研究を具体化した複数核種の特性の把握,それら情報のデータベース化は,ポジトロン製剤を用いた診療に有益であるのみならず,その情報に基づく定量的な診断手法の構築,コンピュータ支援診断技術の適用など,多くの面に利用できる可能性があり,今後,研究の発展が期待できる分野である.
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