Research Abstract |
本研究では,イトウの生息範囲を正確にとらえ,そのデータを活用した生態学的なアプローチにより,本種の行動メカニズムを明らかにし,将来的な保護や周辺環境の保全に寄与する情報を得ることを目的とし,バイオテレメトリー手法を用いてイトウの正確な位置・時間とその移動の情報を収集・蓄積した。 調査は,厚岸郡厚岸町の別寒辺牛川水系において,2006年4月下旬から同年12月上旬,2007年4月下旬から同年11月下旬の期間に行った。イトウは2006年に2個体、2007年に5個体捕獲し,超音波発信器を装着した。超音波受信機を河川内の定点(間隔約2km〜5km)に設置し,並行してカヌーの舷側に取り付け,GPSで位置情報を取得しながら河川内を移動した。 受信機データから放流した全個体の受信が確認でき,受信回数は2006年に130回,2007年に37,683回であった。産卵後の降下行動の平均時間は44.1±29.1時間(Mean±S.D.),平均距離は33.4±12.5km,平均速度は0.46±0.21BL/sであった。 受信機の結果から季節別の分布は,春季(5,6月);中流域から河口域,夏季(7,8月);中上流域から中流域,秋季(9,10,11月);下流域から河口域,であった。また,下流域の水温が急激に上昇した際た,中流域まで遡上した個体も見られ,その移動距離は最大約13kmに及んだ。さらに,季節間だけではなく昼,夜間においても行動の傾向が異なっており,春季では夜間の1時間あたりの受信数が昼間の受信数の約2倍あり,夏季では日出,日入時刻の受信数が多かった。 以上より,産卵直後の降下行動においては,イトウは好条件の生息場所の確保を目的に降下していると推察された。季節移動には,水温と餌環境が影響していることが推察される。また,比較的短期での行動は,昼夜,潮汐,降雨などの影響を受けていることも考えられた。
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