2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18652015
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
野村 幸弘 岐阜大学, 教育学部, 助教授 (20198633)
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Keywords | 扮装像 / ドメニコ・ギルランダイオ / フランドル絵画 / フーホー・ファン・デル・フース / ミケランジェロ / カラヴァッジョ |
Research Abstract |
「扮装像」とは、画家が自ら描く絵画作品の中に、自分自身にある役割を担わせて登場する自画像のことである。絵画史上「扮装像」として初めて際立った登場の仕方をした画家は、おそらく15世紀イタリアのドメニコ・ギルランダイオである。画家としての自画像のほかに、彼は《キリストの降誕》(サンタ・トリニタ聖堂)で、自分自身を羊飼いのひとりに扮装させて描いている。この部分は、フランドルの画家フーホー・ファン・デル・フースの《ポルティナーリ祭壇画》から強く影響を受けた表現であり、これまでのイタリア絵画の伝統にはなかった新しいリアリズム様式である。まさにその様式で自分自身を描いたことは、フランドル絵画のすぐれた表現へのオマージュを示していると考えられる。そのギルランダイオの工房で修業したミケランジェロの作品にも「扮装像」が多数表されている。ギルランダイオとちがって、彼には自画像が1点も残されていない。すべてだれかに扮装して作品の中に登場する。あたかも演劇俳優のように、ノア、ホロフェルネス、エレミヤ、パウロ、ニコデモなどに扮装している。しかしこれらの扮装に共通しているのは、年老いていることと、陰鬱で否定的な役柄であること、である。とくに《ユーディットとホロフェルネス》《最後の審判》(システィナ礼拝堂)《パウロの回心》(パオリーナ礼拝堂)における「扮装像」はきわめて特異であり、キリスト教の主題を自己の内面、、心理、願望などの芸術家個人のテーマに改変する最初の表現という点で重要である。レオナルド・ダ・ヴィンチの表現にはこうした要素は見られないが、のちのバロックの時代にカラヴァッジョに受け継がれて行くことになる。
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