Research Abstract |
共有結合に与るClおよびBr原子の原子内電子分布の異方性に由来し,原子上の電気四重極子により表現できるような,近距離で働く指向性の強い分子間相互作用は,分子集合体の化学に新しい展開をもたらす可能性がある。特に,分子内の他の置換基によって,ハロゲン結合の形成されやすさが大幅に変化する点について,十分な物理化学的考察を行うことは,超分子化学等へ応用するにあたって,重要なファクターである。 そこで本研究では,超分子化学への応用の基礎となるような,ベンゼン環等をもつハロゲン化有機分子を対象として,環に結合する置換基や環内のヘテロ原子が,ClおよびBr原子周辺の分子間静電相互作用とClおよびBr原子の原子内電子分布など電子構造に,どのように影響を及ぼすかについて,理論的に検討した。具体的には,C_6H_5-X, F-C_6H_4-X, C_5H_4N-Xの各々(X=Cl, Br)およびO_2N-C_6H_4-Br(C_6H_5-X以外は,置換基どうし,または置換基とヘテロ原子の位置関係としてo, m, pの3種類)を対象としてab initio MO計算を行い,分子周辺に形成される静電ポテンシャルをよく再現するような原子上電荷および四重極子を自作プログラムによるフィティングにより求め,置換基等の種類および位置関係との関係を検討した。 その結果,四重極子に由来するC-X結合延長上の外向きの電場が,電子求引性の強い置換基等の存在により,一層顕在化することが分かった。このことは,適切な分子設計による超分子の構成が可能であることを示唆する。
|