2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18655012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 栄一 東京大学, 大学院理学系研究科, 教授 (00134809)
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Keywords | 有機化学 / 構造決定法 / 電子顕微鏡 / カーボンナノチューブ |
Research Abstract |
1分子1分子をあたかも分子模型のように見ることは自然科学者の長年の夢である.本研究では,透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて孤立有機分子の原子像および化学反応を観察することで,全く新しい有機構造化学の橋頭堡を築くことを目的としている.本年度,刻々と変化する有機分子一分子の形と運動の直接観察に世界で初めて成功した.以下に詳細を述べる. 単一有機分子を観察するためには,分子を真空中に孤立させ,分子運動を遅くすることが必要であり,カーボンナノチューブ内部が観察場として適当であると考えた.そこで,観察対象の分子として,目印となる分子(ホウ素クラスター)と柔軟な鎖状分子(炭化水素)を結合し,脂質分子に似た特徴的な構造をもつ一連の化合物を設計・合成した.これらの分子を0.9-1.2nmの直径を持つナノチューブに閉じこめてTEM観察を行った.実験には解像度2.1オングストローム,加速電圧120kVのTEMを用いた.直径0.9nmのナノチューブに分子をとじ込め,固定して,顕微鏡観察下で電子線エネルギー損失スペクトルを取ることでホウ素原子の存在を確認し,さらに特徴的な分子構造を確認することで,単一小分子のTEMによる観察が可能であることをまず実証した.炭素原子一原子一原子の分解能は得られなかったが,炭素鎖やホウ素からなる球状部分をはっきりと確認できた. 続いて,直径1.2nmのチューブ内で分子が動く様を秒単位で直接画像化することに成功した.すなわち,二つの炭化水素鎖を持つ分子の二つの鎖がチューブの中でゆっくり回転する様子が40秒にわたる連続画像で撮影できた.また,分子が前後に1秒当たり10nm程度の速度で前後に運動する様子も観察された.速度が頻繁に変化すること,ときおりチューブの一部に引っかかって動きが止まることなどもわかった.チューブと有機分子の「分子レベルでの摩擦」を観察したものといえる.
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Research Products
(1 results)