Research Abstract |
血管壁内側の内皮細胞は,容易に障害を受け,傷付いた部分から動脈硬化が進行する.その内皮は,血流によるずり応力により一酸化窒素(NO)を産生するが,NOは血管中膜の平滑筋に作用し,血管を弛緩・拡張させる(内皮由来血管弛緩反応).本研究では,この反応に伴って中膜が柔らかくなる現象を,超音波を用いて皮膚から計測する方法を新たに開発し,内皮の障害の程度を非常に敏感に診断することの可能性を示し,動脈硬化症の早期診断法として確立することを目指している.本年度は,空間分解能を向上させて上腕動脈の壁を,さらに内膜・中膜・外膜領域の3層に分け,内膜中膜領域の硬さの高精度連続計測を可能にするための検討を行った. 実際のデータでは,内腔・内膜境界と中膜・外膜境界からは,大きな反射波が戻っている.一方,平滑筋が占める内膜中膜領域内部からの反射波の振幅は小さい.そこで,この反射波形を,モデルと整合させることによって,内腔・内膜境界と中膜・外膜境界を検出し,その間にある内膜中膜領域(厚さ約0.3mm)を厳密に定義するための方法を新たに開発した.これにより,平滑筋領域で1拍中に生じる僅かな厚み変化(約数μm)を高精度に計測することに成功した. この0.3mmは,通常の10MHzの超音波エコー装置の波連長程度であるため,安定な計測には,波連長を1波(0.15mm)程度に短くし,さらに,直交検波波形ではなく,RF波形をA/D変換する必要があり,そのため,標本化周波数66MHzの長時間高速A/D変換器を接続し,かつ波連長制御ソフトウェアの改造も行っている.こうして高精度に得られた,内膜中膜領域での1拍内の厚み変化の最大値と,血圧を基に,内膜中膜領域の硬さ(円周方向弾性率)を算出することが可能となった.これは今までにはない優れた成果と言える.
|