Research Abstract |
罹病性程度が異なるMedicago truncatulaの2種のエコタイプにおけるエンドウ褐紋病菌の感染行動を詳細に観察した結果,高度罹病性を示すエコタイプ(R108-1)では,被侵入細胞から葉組織全体に菌糸が蔓延するのに対し,抵抗性エコタイプ(Caliph)では侵入菌糸の伸展が著しく抑制(遅延)され,死菌糸や菌糸内菌糸の形成が観察された.実際,Caliphにおける抵抗性機構を明らかにする目的で,カロースと活性酸素の生成について組織化学的観察を行ったところ,表皮細胞での明瞭なカロース反応は認められなかったが,Caliphでは侵入部位あるいはその周辺細胞が強くDAB染色され活性酸素の生成が認められた.しかし,R108-1では,侵入を受けた表皮細胞には顕著な生成は観察されず,むしろ内部の葉肉細胞に明瞭なDABの沈着が認められた.そこで、Medicago truncatulaのモデル系における疾病の分子機構(遺伝的分子基盤)を解析する目的で,エチルメタンスルホン酸(EMS)で突然変異処理したM.truncatula種子から罹病性が低下した変異系統を選抜し,後代(M3〜5世代)での遺伝的安定性について調査した.その結果,いずれの選抜系統でも野生型と比べて褐紋病菌による病斑形成は抑制され,その形質は遺伝的に安定していることが確認された.一方,光顕で感染行動を観察した結果,野生型では接種後2〜3日目には侵入菌糸が葉組織全体に伸展するのに対し,罹病性が低下した変異系統では菌糸の伸展は表皮細胞とそれに隣接する葉肉細胞に限られていた.また,DAB染色の結果,菌の侵入部位により強い陽性反応が観察され,侵入に応答して多量の活性酸素が生成されているものと考えられた.両系統の葉上における胞子発芽や付着器形成などの侵入前の形態形成には大きな違いは認められなかったことから,罹病性低下の原因は表皮細胞への侵入阻害あるいは侵入後の伸展阻害によるものと考えられた.現在,基本的親和性(罹病性)を決定する植物遺伝子の単離に向けて引き続き解析を進めている.
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