2006 Fiscal Year Annual Research Report
GHQ文書を用いて戦後5年間の感染症流行を解明する研究
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18659187
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
丸井 英二 順天堂大学, 医学部, 教授 (30111545)
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Keywords | 感染症 / 罹患率 |
Research Abstract |
戦後日本の感染症流行の情報収集は、1945年9月22日、GHQ/SCAPが「公衆衛生対策に関する覚書(SCAPIN-48)」を出し、厚生省が提出すべき情報、及び緊急にとるべき施策についての指示、疾病蔓延状況の調査や各府県毎の伝染病の週間報告を指令したときに始まる。 本研究では、この覚書にもとづき毎週報告された全国46都道府県からの感染症統計データから、戦後の感染症流行を疫学的、政策学的に追跡し、現在に至る感染症研究や政策への示唆を得ることを目的とした。 そのために、GHQ/PHWのWeekly Bulletinに添付されている感染症統計のデータベース化を行っている。これまで、毎月の感染症罹患数であったが、今回、毎週の罹患数を入力することで都道府県間の伝播をよりダイナミックにとらえることが可能となった。1945年10月から記録が残る「ジフテリア」、「赤痢」、「腸チフス」、「パラチフス」、「天然痘」、「発疹チフス」、「猩紅熱」、「流行性髄膜炎」、「コレラ」、「ペスト」と、1946年6月に追加された「マラリア」、「日本脳炎」、計12種を取り上げ、罹患率の推移を報告した。 たとえば、発疹チフスは戦争や貧困、飢饉など社会的悪条件下で流行することが多く、終戦翌年の大流行は3万2千人を超える患者数であった。罹患率の推移(地方別)をみると、最も罹患率の高かった近畿地方では、1946年1月から急激に増加し3月にピークを迎えた。関東地方は、近畿地方からひと月遅れで罹患率が上昇し、4月に最も高くなる。北海道は1945年から罹患率が上昇し始め、1946年6月にピークを迎える。 そうした中、マラリアはきわめて特異的な流行様式を示した。すなわち、まず全国的に復員、引き上げなどによる輸入マラリアが流行した後、急速に収まったが、滋賀県だけが昭和25年になっても高い罹患率を示した。これは土着型のマラリアがあったためで、地域活動により昭和30年頃までにはほぼ消滅した。同じ頃、沖縄の石垣島では米軍の方針による住民の移住を契機としてマラリアが再燃し、薬剤の大量使用などにより囲い込みに成功したが、滋賀県とくに彦根市では市立マラリア研究所を設立し、地域活動を通してマラリア撲滅をした点で高く評価できる。 感染症の制圧にはGHQ/PHWの人材が現地に派遣され活躍した記録も散見されるので、こうした側面にも注目して、次年度はさらに毎週のデータを解析するとともに、GHQと厚生省との相互関連など政策的動きの分析を行っていく。
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Research Products
(1 results)