Research Abstract |
口腔の感覚機能評価のひとつである口腔立体認知能(Oral Stereognosis Ability : OSA)について,高齢者と若年者,高齢有歯顎者と全部床義歯装着者,全部床義歯装着者の義歯装着時と非装着時のそれぞれの間で比較検討を行った. 被験者は,研究の参加に同意が得られた全部床義歯装着者(男性8名,女性6名,平均年齢73.9±5.9歳),個性正常有歯顎者(高齢者群:男性7名,女性1名,平均年齢67.1±3.2歳,若年者群:男性7名,女性7名,平均年齢25.9±1.9歳)である. 口腔感覚機能の評価には,口腔立体認知能(OSA)試験を用いた.OSA試験に用いた試験片の形態は,6種類(円,楕円,半円,正方形,長方形,正三角形)であり,各形態につき大小2種類の寸法の計12種類の試験片を使用した.各試験片は,被験者の視野に入らないように舌背中央に乗せ,直ちに自由に形態を判別させた.試験順序はランダムとし,各形態・寸法の試験片につき,それぞれ2回,合計24回行った.回答は,3段階(正解=2,近い答え=1,不正解=0)で評価し,合計点数をOSAスコアとし,24回の回答に要した時間の総計をOSA時間とした.統計的分析方法には,一元配置分散分析およびFisher's PLSDを用いた. 若年有歯顎者と比較して,高齢有歯顎者のOSAスコアは有意に低く,OSA時間は有意に長かった(p<0.01).一方,高齢有歯顎者と全部床義歯装着者との間に,OSAスコア,OSA時間ともに有意差を認めなかった.また,若年者において,実験床による口蓋の被覆はOSAを低下させたが,全部床義歯装着者において,義歯装着時は非装着時と比較して,OSA時間に有意差を認めなかったものの,OSAスコアは有意に高くなった(p<0.05). 以上の結果から,義歯は咀嚼や発音などの機能を回復する役割のほかに,口腔の感覚機能の回復にも寄与することが示された.
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