2006 Fiscal Year Annual Research Report
液体窒素温度を超える高温で四極子秩序転移を示すイッテルビウム炭化物の研究
Project/Area Number |
18684019
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
小坂 昌史 埼玉大学, 理工学研究科, 助教授 (20302507)
|
Keywords | 四極子秩序 / 希土類炭化物 / 強相関電子系 / 二次元子 / フラストレート / 中性子非弾性散乱 / 結晶場 / 単結晶育成 |
Research Abstract |
申請者は希土類炭化物YbAl_3C_3において、液体窒素温度を越える80Kで四極子秩序と考えられる相転移を発見した。四極子秩序は化合物を構成する希土類元素のf電子軌道が整列する現象であり、スピン・電荷に継ぐ第3の秩序として近年注目されている。この80Kという転移温度はこれまでの記録を大幅に更新する結果となり、これまで弱いと考えられてきたf電子軌道間の相互作用は条件さえ整えば十分強い相互作用になり得ることを示している。本年度は四極子秩序を議論する上で出発点ともいえる、Yb(イッテルビウム)の4f電子が受けている結晶場の影響を調べるために日本原子力研究所にて中性子非弾性散乱実験を行った。その結果、明瞭な磁気励起が3本観測され結晶場の解析に必要な情報を揃えることができた。そして、より詳しく5meV以下の低エネルギー領域の中性子非弾性散乱実験を行ったところ、結晶場では説明の付かない激しく温度変化する磁気励起を観測した。これはYbの結晶場基底状態であるクラマース二重項が動的な内部磁場を感じ、ゼーマン分裂した現象を観測しているのではないかと考えている。非常に良く似た実鞄結果を示す物質にYb_4As_3という電荷秩序を示す化合物がある。Yb_4As_3は290Kで111軸方向に一次元的に3価のYbが秩序配列することが知られており、低温では低エネルギー領域にYbAl_3C_3と共通性のある磁気励起が観測されている。更に、単結晶試料を用いた実験で逆格子空間での分散関係も測定されており、その結果この磁気励起は一次元ハイゼンベルグ反強磁性模型で説明されるフラストレート起源によるものと理解された。翻って本研究の対象物質であるYbAl_3C_3を眺めてみると磁性を担うYb原子は二次元的な三角格子を組んでいる。つまり、二次元三角格子のフラストレートがこの物質の物性に重要な役割を果たしていることが実験結果から明らかになり、高い四極子転移温度発現の一端を担っていると推測される。また、本年度の目標の一つである単結晶試料の作成も一定の成果を見ることができた。次年度に軌道秩序を直接観測することができる、共鳴X線散乱実験をSpring-8にて行う計画を進めている。
|