2007 Fiscal Year Annual Research Report
コンビナトリアル手法による高分子ナノ物性の理解と予測
Project/Area Number |
18685014
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 敬二 Kyushu University, 大学院・工学研究院, 准教授 (20325509)
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Keywords | コンビナトリアル手法 / 高分子ナノ物性 / 階層的ダイナミクス / 表面・界面・超薄膜 / 走査プローブ顕微鏡 / 中性子反射率測定 / 動的粘弾性測定 / 時空間分解蛍光測定 |
Research Abstract |
高度集積化デバイスの開発に伴い、素材を超薄膜として使用する機会が増えている。高分子超薄膜の諸物性はバルク材料と比較して著しく異なることが明らかにされつつあり、その発現因子の解明は、学術的な興味はもちろん、高機能ナノ材料の開発とも関連して重要な課題と位置づけられる。本年は、蛍光色素NBDをプローブとし、超薄空間に拘束された高分子鎖の熱運動特性を明らかにすることを目的として実験した。 室温で蛍光強度(Iu)の膜厚(d)依存性を評価した。dが200nm程度以下の場合、Iuはdと共に減少した。膜がバルク層と厚さα_sの表面層から成ると仮定して、実験結果の再現を試みた。d>16nmの範囲でα_s=19nmとするとベストフィットが得られた。この際の表面領域における蛍光強度はバルク試料のそれと比較して小さく、1/5程度であった。さらにIuは、膜厚20nm程度以下で増加した。この結果は、膜が薄くなると表面効果だけでなく界面効果も顕在化し、両効果は膜厚が薄いほど顕著になることを示唆している。蛍光強度の時間依存性から平均の蛍光寿命(<τ>)を算出した。Dが200nm程度以下の場合、<τ>はdと共に減少した。一般に、マトリクスの分子鎖熱運動性が活性化すると、NBDの最低励起状態から基底状態への遷移に関する無放射失活の割合が増加する。したがって、この結果は、薄膜化に伴いPSの運動性が活性化することを示唆している。前述と同様に、二層おモデルを用いて実験結果の再現を試みた。表面層における<τ>(<τsurf>=4.3 ns)はバルクにおける値(<τbulk>=6.5ns)と比較して小さかった。これらの結果は、前述と良く対応している。一方、<τsurf>はくτbulk>と比較して3/5程度であった。これは超薄化における量子収率の減少は、動的消光だけでなく、他の因子にも依存することを示唆している。蛍光寿命がマトリクスの分子運動性を反映することは明らかであるが、その解釈は必ずしも明確でない。蛍光プローブの動きを直接観測するため、蛍光異方性比Rの時間(t)変化を膜厚の関数として評価した。蛍光異方性比は時間と共に減少したことから、NBDは室温においても回転緩和すると結論できる。得られた蛍光異方性比の時間依存性を二成分指数関数でフィットさせることでNBDの平均回転緩和時間<ρ>を算出した。<ρ>は厚膜中において12nsであったが、超薄膜中では7nsと短くなった。このことは超薄膜中においてNBD分子が回転しやすいことを意味しており、前述と良く対応している。また、いずれの場合もオフセット成分が観測されたことから、回転緩和できない蛍光プロープも存在するといえる。これらの結果は、膜厚方向において局所運動ならびに/あるいは自由体積の勾配が存在すると考えれば、上述の結果と矛盾なく説明できる。
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