2008 Fiscal Year Annual Research Report
コンビナトリアル手法による高分子ナノ物性の理解と予測
Project/Area Number |
18685014
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 敬二 Kyushu University, 大学院・工学研究院, 教授 (20325509)
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Keywords | コンビナトリアル手法 / 高分子ナノ物性 / 階層的ダイナミクス / 表面・界面・超薄膜 / 走査プローブ顕微鏡 / 中性子反射率測定 / 動的粘弾性測定 / 時空間分解蛍光測定 |
Research Abstract |
高度集積化デバイスの開発に伴い、素材を超薄膜として使用する機会が増えている。高分子超薄膜の諸物性はバルク材料と比較して著しく異なることが明らかにされつつあり、その発現因子の解明は、学術的な興味はもちろん、高機能ナノ材料の開発とも関連して重要な課題と位置づけられる。超薄膜では、試料全体積に対する表面・界面積の比が著しく大きくなる。本年は、非溶媒界面における高分子のダイナミクスにも着目し、実験を行った。中性子反射率 (NR) 測定に基づき、液体界面におけるポリメタクリル酸メチル (PMMA) 膜の厚さ方向の密度分布を評価した。単分散かつ高分子量の重水素化試料(dPMMA)を用いた。乾燥状態で評価した膜厚は67.8nmであった。水界面における膜厚方向の密度変化は空気界面と比較してブロードであったことから、膜最外層に存在するdPMMAセグメントは一部溶解していると推測した。また、水界面からの深さが5〜20nm付近に密度の低下した層が存在した。これは、水がdPMMA膜に収着したことを示している。以上の結果より、水はPMMAの非溶媒であるにもかかわらず、PMMAセグメントを一部溶解させ、膨潤させると結論した。水界面におけるPMMAの弾性率は、フォースカーブ測定に基づき評価した。空気界面および水界面いずれの場合も、弾性率は界面に近いほど低下していた。水界面近傍における弾性率の著しい低下は、水分子の収着に起因する。これはNR測定に基づき評価した、膨潤層厚の結果とよく対応していた。水平力顕微鏡 (LFM) を用いて、水界面における分子鎖緩和挙動を評価した。水平力のピークは緩和過程の発現に対応する。水界面では、空気界面で観測されなかった新しい緩和ピークが出現した。その極大温度は空気界面におけるα_aおよびβ緩和過程の中間の温度域であった。また、水界面で観測された緩和過程の活性化エネルギー (ΔH) は約120kJ・mol^<-1>であった。この値は、試料内部におけるセグメント運動、すなわち、α_a緩和過程のΔH値、660kJ・mol^<-1>また、空気界面におけるΔH値の230kJ・mol^<-1>よりも小さい。一方、側鎖の束縛回転とローカルモード緩和がカップルしたβ緩和のΔH値は試料内部で80kJ・mol^<-1>、空気界面で50kJ・mol^<-1>であり、ここで観測された緩和過程のΔHよりもさらに小さい。それゆえに、305K程度で観測された緩和ピークは水分子によって可塑化されたセグメント運動に起因すると結論した。以上の結果は、高分子表面に非溶媒を接触させるだけで接着力河能となること示唆している。これまでに得られた分子鎖熱運動性の表面・界面効果を総括することで、高分子超薄膜における物性の予測が可能となった。
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