Research Abstract |
大気圧非平衡プラズマプロセスでは,高価で複雑な真空装置を必要としない長所に加え低圧プラズマと全く異なる独自の反応系が注目を集め,先進材料合成プロセスの実現に向けた基礎・応用研究が急展開している。本研究では,大気圧プラズマと基板電極のミクロスケールの境界領域,すなわちプラズマシースで生じる物理化学的現象の本質理解に基づき,これまでプラズマCVDでは成功例が極めて少ない垂直配向単層カーボンナノチューブ(以下SWNTs)の合成を目的としている。さらに,厚さ数100μmまで縮退した大気圧プラズマのシースをモデル化したミニチュア・プラズマリアクターを別途製作し,プラズマ診断を目的とした各種分光分析システムを構築した。 SWNTsを合成する触媒の調整にはディップコーターを用い,シリコン基板にバイメタリック触媒微粒子(Fe/Co:1-2nm)を均一に単分散させた。大気圧プラズマを印加することで垂直配向したSWNTsを90%以上の収率で合成することができた。分光イメージングの結果,基板近傍には約900μmのシースが形成されており,1000V/cmに相当する高電界が付与されていることがわかった。一方,イオンの加速エネルギーは高く見積もっても0.05eVであり,イオンダメージを回避することが配向SWNTsの合成に不可欠であることを実証した。高い収率でSWNTsを合成するには,イオンダメージ回避すると同時に,基板に流入するラジカルフラックス(圧力,投入電力による)も最適化しなければならない。これは,従来のプラズマCVDでは提案されていない全く新しい知見である。 プラズマシースのミクロ構造の解析では,シースをモデル化したミニチュアリアクターを製作し,活性化学種の同定を目的とした顕微ラマン分光システムを構築した。なお,ここで開発したミニチュアリアクターは,量子物性を有するシリコン量子ドット合成のためのマイクロリアクターとしても応用展開した。本研究で開発した顕微ラマン分光システムは,ミクロ可視光(514nm,488nm)のみならず,マクロ紫外(325nm)まで励起レーザー波長を拡張することで,ラマン散乱光,フォトルミネッセンスなど目的に応じて多種多様な光学計測へ適用可能である。一方,励起レーザーを用いなければ,顕微プラズマ分光計測としてプロセス診断に適用することもできる。具体的なプラズマ診断への応用は,研究計画書に則ってH19年度に実施する。
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