Research Abstract |
本年度は,MRI動画データに基づき,緩やかな発話運動から急峻な音響変化が生じる過程について,母音と破裂子音、鼻子音で検討を行った。まず,昨年度から開発に取り組んでいた,時間領域で音声生成をシミュレートするタイムドメイン合成器の開発を続行し,その内容を論文として発表した。次に,2モーラからなる単語の発話運動を,MRI動画撮像法を用いて60frame/secのサンプリングレートで記録した。この動画データから,発話器官各部の運動を計測した。計測したのは,破裂子音における声道閉鎖の位置とタイミング,鼻腔入り口の開放のタイミング,および無声化に伴う披裂軟骨の外転のタイミングである。これらの時間パタンに基づいて,タイムドメイン合成器を用いて音声生成をシミュレートした。その結果,破裂子音では,発話運動は全体としては緩やかであっても,局所的な声道閉鎖が開放される瞬間に生成される体積流は急激な音響変化を生じさせていることが明らかになった。しかし,鼻子音を含む発話では,鼻腔入り口は常に開いており,急激な音響変化は軟口蓋ではなく,口唇などの閉鎖により,口腔が零点を生じる分岐管に急激に変化することによって生じる可能性が示唆された。 また,母音の各フォルマントに対する声道各部の音響的な影響を3次元的に解析するために,3次元のMRIデータを時間領域差分法で音響解析する手法も開発した。この手法により計測された声道の伝達関数は,同じデータから作成した実体模型の伝達関数の実測値と高い精度(第4フォルマントまでの平均誤差が2.1%以下)で一致した。
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