Research Abstract |
脳の認識機能の特徴は,同じ感覚入力に対しても,さまざまなとらえ方を見出す柔軟性にある。1つの図形の観察において複数の見えが意識に昇る知覚闘争現象は,この脳の柔軟性を理解する上でも,重要な知覚現象である。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)により,この切り替わりに関連して,脳内の広範囲の部位が活動しており,これらの部位の大規模統合が深く関わっている可能性が示唆されている。そこで本研究では,双安定性仮現運動刺激を用いて,知覚闘争時におけるMEG信号を計測した。解析手法としては,MEG信号の単一試行波形を抽出し,周波数ごとに,band-passフィルタ+Hilbert変換を用いて,複素平面への写像を行った。その実信号,虚信号に対して,皮質限定のMinimum norm推定を行い,実空間上の脳活動領域と虚空間上の脳活動領域を求め,それらを利用して,試行ごとのパワーと位相を求めた。その結果,ガンマ帯において,知覚交替約1200ms前から,右前頭と後頭領域の間の位相同期が高まり,それが,反応時間付近の交替約500ms前まで続くという推移を示した。Sterzerら(2006)の双安定仮現運動知覚のfMRI研究は、Rivalry条件における右下前頭野の活動が,Replay条件と比較して約800ms早く活動することを示している。彼らは,この800msという時間は,高次野と感覚野の再帰的な相互作用を示唆していると解釈しているが,本研究の結果は,彼らの示唆をMEG信号の位相同期指数という形で実証したといえる。
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