Research Abstract |
本研究の目的は,同じ酸素分圧にコントロールされた2種類の擬似高所(低圧低酸素環境と常圧低酸素環境)で,気圧の違いによって安静および運動中の生理応答にどのような違いが生じるのかを検討することである.本年度は,低圧低酸素環境と常圧低酸素環境への急性暴露が,安静時の換気応答と自律神経活動に与える影響を検討した. 5名の健康な青年男性を被験者とした.被験者は高度3,000m相当に設定された低圧低酸素環境下(気圧:701hPa,酸素分圧:147hPa,酸素濃度:20.9%)と常圧低酸素環境下(気圧:1013hPa,酸素分圧:147hPa,酸素濃度:14.5%)で30分間の座位安静を行い,呼気ガス分析(酸素摂取量,換気量,呼吸頻度,終末呼気酸素分圧,終末呼気二酸化炭素分圧),心電図R-R間隔および動脈血酸素飽和度を測定した.低圧低酸素環境は減圧室を利用して,常圧低酸素環境は膜分離法を用いた常圧低酸素室を利用して作り出した. その結果,安静時の酸素摂取量,分時換気量,呼吸頻度,終末呼気酸素分圧に,両環境間で有意な差はなかった.安静時の終末呼気二酸化炭素分圧は,常圧低酸素環境下より有意に高い値を示した.これは,気圧の違いが低酸素暴露によって生じるhypocapniaの程度に影響を与えていることを意味する.安静時の動脈血酸素飽和度は,常圧低酸素環境下の方が高い傾向を示したが,その差は有意ではなかった.自律神経活動に与える影響としては,心拍R-R間隔変動のLF power(交感神経活動),HF power(副交感神経活動)ともに両環境間に差は見られなかった. 以上の結果から,低酸素環境下では,同じ酸素分圧でも気圧の違いによって生理応答に違いが生じることが示唆された.しかしながら,高度3,000m相当での安静時の場合,その差は小さいと言える.
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