Research Abstract |
全身の温熱的快適性に影響を及ぼす身体部位を明らかにすることを目的として,本年度は,皮膚濡れ率を指標として,局所の温熱的快適性の閾値について被験者実験より検討した.本研究では,健康な日本人女子大学生5名(平均年齢22.0歳)を被験者とした。身体中の対象部位として,体表面積比と発汗量がほぼ同値となる体幹,上肢,大腿の3部位を選択した。実験では,全身と対象部位の皮膚濡れ率を同時に制御して,全身および対象部位における局所の温熱的快適感を申告させた。その結果,皮膚濡れ率で表される対象部位の温熱的快適性の閾値は,体幹では0.20(SD±0,12),腕では0.13(SD±0.05),大腿では0.11(SD±0.08)であった。これらの値には有意差(p<0.01)が認められ,温熱的快適性の閾値には部位差が存在ことが示された.本実験条件の範囲では,局所が温熱的に不快な状態にある一方,全身の皮膚濡れ率が0.14(SD±0.08)以下に維持されていれば,全身は温熱的に快適であることが実験的に示された。次に,温熱的快適性の変化に対する皮膚濡れ率の変化を温熱的快適性の感度と定義して,対象部位間における違いを検討した。ここでの温熱的快適性の感度は,絶対値が小さいほど,僅かな皮膚濡れ率の増加により温熱的不快感が増加するため,敏感な部位ということになる。温熱的快適性の感度は,体幹では-0.14(SD±0.02),腕では-0.08(SD±0.02),大腿では-0.10(SD±0.05)であった.これらの値には,部位による有意差は認められなかったものの,部位により違いのある傾向が示された(p=0.15).つまり,四肢は皮膚濡れ率の僅かな増加に対して,不快感をより強く感じることが示唆された。以上より,腕と大腿は,体幹よりも小さい皮膚濡れ率から,温熱的に不快感を覚え始めることが示唆された.そして,いったん温熱的不快感に達した後も,腕や大腿の方が,皮膚濡れ率の増加に対し,より敏感に温熱的不快を感じることが示された。
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