2008 Fiscal Year Annual Research Report
味覚のワーキングメモリ : 機能的近赤外分光法を用いた脳科学的研究
Project/Area Number |
18700625
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Research Institution | National Agricultural Research Organization |
Principal Investigator |
岡本 雅子 National Agricultural Research Organization, 食品総合研究所食品機能研究領域, 契約研究員 (00391201)
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Keywords | 実験心理学 / 食品 / 脳・神経 / 記憶方式 / 味覚 |
Research Abstract |
本研究の目的は、味覚情報処理における高次脳機能の役割を明らかにすることである。当初はワーキングメモリ(WM)を対象とする予定であったが、味覚実験では、刺激呈示の間に口を漱ぐ必要があるため、視聴覚刺激のWM課題におけるような短時間(数秒)の刺激間隔での実験実行が困難であった。そこで、前年度より、通常のWM課題よりも刺激間隔が長く、WMと類似した前頭領域の関与が示唆されているエピソード記憶課題へと課題を変更し、研究を行なった。 まず、記憶実験を成立させるために十分なバラエティーの味覚刺激を調製するため、基本五味混合溶液211種類を調製し、それらの感覚強度などのデータベースを作成した。その際、味の評価に対する状況(文脈)の影響を確認するため、味サンプルに異なるラベルをつけた場合の評価の違いを検討し、食品名をつけたサンプルは、数字ラベルをつけた食品よりも味を好ましく、なじみ深く感じることを見出した(発表論文1)。次に、得られたデータベースを利用して、味を覚える(記銘)際と、思い出す(再認)際の、32名の参加者の前頭前野活動を、fNIRSにより評価した。この結果、再認過程において記銘過程より前頭前野の右脳の活動が高まることが明らかとなった。これは、視聴覚で示唆されてきたHemispheric Encoding Retrieval Asymmetry説と一致しており、味覚でも、視聴覚の場合と同様、記憶過程の異なる段階で、異なる高次脳機能が関与する可能性が示唆された。この成果は現在論文執筆中である。最後に、副次的な成果として、味記憶課題のコントロールとして設定した、「単に味を味わう」条件において、前頭腹外側領域の活動を認めた。前頭外側領域は、いわゆる味覚処理領域ではないが、近年、味覚処理の認知的な側面を反映する領域として注目されつつある。そこで、この「単に味を味わう」条件における脳活動について、メタ解析を行なうための手法を開発し(発表論文3)、味わう際に前頭腹外側領域が関与する可能性を報告した(発表論文2)。
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