Research Abstract |
本研究は,アメリカ合衆国において医療が専門化される過程を,特に産科学に焦点を当てて明らかにすることを目的としている。本年度は,産科学が医療専門分野として台頭する過程において,産科学教育の改革が果たした役割に焦点を当てた。20世紀初頭にアメリカの医学教育に関する調査報告書が公表され,医学教育の中でも特に産科学教育が非常に粗末で悲惨な状態にあることが明らかになった。さらに,出産による母体死亡率に関する調査報告書が公表され,アメリカの出産による母体死亡率が他国のそれと比較して高く,その多くは予防可能であることが明らかになった。そのため,医師達の間で,産科学教育の改革の必要性が叫ばれるようになった。20世紀初頭に行われた産科学教育の改革をめぐる医師達の議論は,当時の産科学が直面していた問題をよく現していた。20世紀初頭には,産科専門医と,広範囲にわたる医療業務の一部として出産を取り扱う一般医との間に,はっきりとした境界線はなかった。出産や産科学に関する議論は,実際には一般医をどうするか,すなわち,彼らを専門家として包含するのかそれとも排除するのか,という議論であった。本研究では,産婦人科学専門雑誌における産婦人科医達の産科学教育をめぐる議論と,児童の健康と保護に関するホワイトハウス会議によって1932年に発表された,医師,看護師,産婆,そして一般大衆に対する産科学教育を評価した報告書から,20世紀初頭アメリカにおける産科学教育の実態と,産科医達が目指していた産科学教育の方向性を分析し,産科学教育が,産科学を高度な専門職として専門医を養成するための制度として整えられていった過程を明らかにした。
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