Research Abstract |
平成20年度の研究では, 主にドイツで展開された, 19世紀末の赤外部スペクトルの研究が, 熱輻射の実験研究と重なり合い発展した過程(赤外部輻射線の実験研究の発展過程)に注目し, 分析を行った。分析にあたっては, 一定の目的をもった実験研究の一連の構成を意味する「実験プログラム」という概念を用いた。 1890年代を中心とするドイツの赤外部輻射線研究には, 主に三つの実験プログラムが見られた。F. Paschenの実験プログラムでは, 早い段階から熱輻射エネルギー分布の法則性の探求を目的として, そのための基本的な機器構成(機器の組み合わせ)を定め, 各機器の開発・基準化を進めながら, 輻射エネルギー分布の測定精度が高められた。O. Lummerらの実験プログラムでは, 光度および温度の標準を求めて, 標準測定に適う測定器, 輻射源の開発に取り組み, それらの実験機器の完成度が輻射法則検証で図られ, それに伴い機器構成も整えられた。H. Rubensの実験プログラムでは, 光と電波の間に位置する赤外線に対するMaxwell理論の適用の実証を目的として, それに適う実験機器, 機器構成の開発・研究が行われ, 測定する波長範囲を広げるための研究が展開された。Rubensの実験プログラムは, ドイツ人研究者だけでなくアメリカ人研究者との多彩な共同研究によって進められたという点でも特色があった。 19世紀末の赤外部輻射線の実験研究には, 熱輻射現象の法則性の導出を指向したPaschenの実験プログラム, 標準研究のために, 輻射測定器, 輻射源の開発を指向したLummerらの実験プログラム, Maxwell理論の実証のために, 遠赤外線にわたる広範囲の輻射測定を指向し, アメリカ人研究者を含めた多彩な共同研究で進められたRubensらの実験プログラムが見出された。そして, これらの実験プログラムが, 実験目的, 機器, 機器構成の研究を介して相互交流し, 熱輻射実験の高精度化, 測定範囲の広範化をもたらし, 19世紀末の赤外部輻射線の実験研究が発展したことが, 本研究によって明らかにされた。
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