2008 Fiscal Year Annual Research Report
ジェルクリーニング剤を用いたセッコ壁画表面の保存処理法に関する研究
Project/Area Number |
18700680
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷口 陽子 University of Tsukuba, 大学院・人文社会科学研究科, 助教 (40392550)
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Keywords | 保存科学 / ジェルクリーニング / 壁画 / 国際研究交流 |
Research Abstract |
第3年次の本年は、昨年度に引き続き、セッコ壁画の構成成分のうち、特に有機物質の分析とまとめを行った。調査に当たっては、アフガニスタンのバーミヤーン遺跡仏教壁画を対象とし、ロシア・エルミタージュ美術館の保存科学研究室と共同研究を行った。壁画の表面に付着した汚れの同定について、微小試料を用いてGC/MSを使用して分析を行った。おもに、スモモのガムなど、植物性多糖類といった水溶性の物質が検出された。 土壁のセッコ壁画の事例として、周辺地域(タジキスタン、インド)の壁画の保存修復の履歴に関する情報収集、現地調査も行った。タジキスタンでは、シャフリスターンやカライカフカハ出土のソグドの壁画を対象とし、ソ連邦時代のロシア人保存修復家らによってなされた保存修復処置の一環である合成樹脂による皮膜による問題について有機溶剤を用いた洗浄方法について現地における調査を行った。とくにインド(アジャンター石窟)では、コウモリの尿害が深刻であり、水溶性の物質で絵画が描かれている場合については、とくに、洗浄が極めて困難な問題を引き起こしていた。コウモリの尿害による壁画の表面の汚れ、洗浄方法については本研究の中で検討することができなかったが、セッコ壁画の洗浄のなかでも今後の大きな課題の一つと考えられる。 今回の一連の研究により、中央アジアの壁画の製作技法と材料に関する、新たなに知見を得ることができたことは大きな成果となった。これらの成果については、国際博物館会議保存修復部会(ICOM-CC)等での研究発表を行った。
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