Research Abstract |
世界第3位のハイダム密度をもつ我が国における河川生態系保全のためには,ダムによる下流生態系への影響を把握する必要がある。本研究は,ダム下流域における効果的な生態系保全をめざして,河川底生動物群集の変化,中でもキーストーン種と考えられるマダラカゲロウ科の分布をダム上流からダム下流にかけて明らかにし,その分布変化と各環境への反応の一般化をめざすものである。平成18年度の本研究では,複数の野外調査を行い,底生動物群集およびマダラカゲロウ科の野外における分布と,それらを強く規定する環境因子を抽出した。 (1)ある1つのダム河川流程での底生動物群集の変化を,可能な限り網羅した環境因子で説明することを試みた。調査は阿木川ダム流程(岐阜県恵那市,木曽川水系阿木川)で行い,多変量解析の結果,底生動物群集に対し相対的に強く影響するのは河床材料組成と流下プランクトン量の二つであることを明らかにした。また,この二因子を河床材料の粗化軸または餌資源軸として,それぞれの軸と,マダラカゲの科を含む優占タクサとの相関を調べた結果,数タクサで有意な強い相関が得られた。特にマダラカゲロウ科の中では,両因子に対し,トゲマダラカゲロウ属・トウヨウマダラカゲロウ属は負の相関を持つのに対し,エラブタマダラカゲロウ属・アカマダラカゲロウ属では正の相関を示していた。 (2)複数のダム河川流程で,上記の相関を検証した。調査は,三重県・奈良県・滋賀県の8つのダム流程において行った。その結果,阿木川ダム流程での結果と同様,生息する底生動物群集は,河床材料組成および流下物有機物量に強く影響されていることが示された。しかし,これら環境因子の底生動物群集変化に対する影響の方向は,各ダムによって様々であった。現在,この違いについて検証中である。 (767字)
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