2006 Fiscal Year Annual Research Report
電子スピン-核スピン結合を利用した多値原子メモリに関する理論的研究
Project/Area Number |
18710085
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
古門 聡士 静岡大学, 工学部, 助教授 (50377719)
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Keywords | スピンメモリ / スピン注入 / 量子スピン反転 / スピン偏極伝導 / 模型計算 / 第一原理電子状態計算 / 強磁性体 / 窒化鉄Fe_4N |
Research Abstract |
電子の電荷とスピン,さらに核スピンの自由度も利用した究極の極微メモリの開発を目的として,今回はまず単一量子スピンの状態をスピン偏極電流により制御する模型を提案し,その特性について調べた((1)).またスピン偏極電流を供給する電極の探索のなかで,窒化鉄Fe_4Nが高スピン偏極伝導を起こすことが示された((2)). (1)量子スピンを持つドットへスピンを多数注入したときの量子スピンの反転について理論的に調べた.反転可能な模型は,1軸性の異方性エネルギー(双安定ポテンシャル)を持つ量子スピンS(S≧1)を,反平行にスピン偏極した2つの電極で挟んだ系である.伝導スピンは電極間を1個ずつ連続的に流れるとする.ハミルトニアンは,伝導スピンと量子スピン間の交換相互作用を含むトンネル項からなる.時刻0でS_z=-Sの初期条件のもと,時間に依存するシュレディンガー方程式を解いた.存在確率の時間依存性から,スピン反転にかかる全時間t_Rを解析的な表式としてもとめた.t_RはSが増えるとともに徐々に増大し,Sが無限大の極限(古典スピンの極限)ではhπ/(4|J|N^<1/2>)[h:プランク定数,J:交換相互作用,N:ドレイン電極のエネルギー準位の数]に収束した.この系では,局在スピンの緩和時間τ_<spin>が,τ_<spin>>t_Rのときにスピン反転が実現すると考えられる.また,一方の電極を強磁性体,他方のそれを非磁性体としたときでも,交換相互作用の大きさによってはスピン反転が可能であることも示した.これらの結果は量子スピンメモリにおける情報書き込みの技術開発につながると期待される. (2)室温で高い磁気抵抗比を示す強磁性トンネル接合のCoFeB電極を参考に,非磁性・軽元素を含む強磁性体のスピン偏極伝導に注目した.ペロブスカイト型構造のFe4Nにたいし,伝導率のスピン偏極率Pを第一原理計算と模型計算により調べた.その結果,Fe_4Nの|P|はbcc-Feのそれの5倍,fcc-Fe(強磁性状態)のそれの2.5倍になることが分かった.このFe_4Nの高スピン偏極伝導は,Nにより強められた3d軌道の伝導への寄与に起因する.Fe_4Nは高効率のスピン注入電極になることが期待される.
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