2006 Fiscal Year Annual Research Report
聖典解釈学を中心とするインド哲学文献の写本調査・原典批判・思想史研究
Project/Area Number |
18720014
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
片岡 啓 九州大学, 人文科学研究院, 助教授 (60334273)
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Keywords | サンスクリット / インド哲学 / 写本 / 聖典解釈学 / Nayamanjari / Jayanta / Sanskrit / Mimamsa |
Research Abstract |
夏と冬にあわせて二回のインド現地写本調査旅行を行なった。 フランスの極東学院ポンディシェリ校の所長、及び、ポンディシェリ留学中のイタリア人若手研究者の協力の下、マドラスにある神智学協会の図書館アディヤール・ライブラリーより、論理学派所属テクストの古写本の電子画像を入手することができた。貝葉古写本のため、写本の状態が悪く、従前より依頼するのもなかなか許可が下りなかったが、今回ようやくにして撮影許可が下りた。貴重な研究一次資料である。 またフランス人若手研究者の協力によりトリヴァンドラムのケーララ大学附属写本図書館より、聖典解釈学派所属のテクストの貝葉写本電子画像を入手することができた。今回、鮮明なものを電子画像で入手できたことで、パソコン上での作業が容易となった。また、フランス人研究者と同テクストに関して今後の共同作業の可能性について話し合った。 またフランス極東学院ポンディシェリ校においてシヴァ教の古聖典『ニシュヴァーサタットヴァサンヒター』(一本の写本のみ現存、未出版)の研究会に参加することで、ネパール古写本に基づくシヴァ教研究についての最新の成果を吸収できた。 従前より蓄積してきた写本研究の成果として、『論理の花房』冒頭部の校訂テクストを『東洋文化研究所紀要』より出版した。先行出版を2本、さらに、著者であるジャヤンタの出身地であるカシミールのシャーラダー文字による写本3本を含む合計6写本に基づいて、詳細な異読情報を付しながら、インド文字であるデーヴァナーガリー文字による校訂出版を完成できた。 また『論理の花房』の一つの山場であり、紀元後900年当時のカシミールの宗教事情について多くの資料を提供する「聖典権威章」については、以前に筆者が批判校訂したテクストに対応する箇所の和訳を九州大学文学部の紀要『哲学年報』より出版することができた。序文には当時の宗教事情、ジャヤンタの宗教観・聖典観について、その背景を詳説した。訳注研究と同時に、インド宗教史・思想史を再構成するための確固たる礎を文献に基づき提供することができた。 以上のように、写本研究、訳注研究、思想史研究にまたがりながら、インド哲学文献について所期の成果をあげることができた。
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