2006 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本における沖縄の包摂と排除--柳田国男と伊波普猷をめぐる思想連鎖
Project/Area Number |
18720021
|
Research Institution | Kyushu International University |
Principal Investigator |
三笘 利幸 九州国際大学, 経済学部, 助教授 (60412615)
|
Keywords | 沖縄 / 排除 / 包摂 / 日琉同祖論 / 民俗学 / 南島 |
Research Abstract |
本研究は、柳田国男と伊波普猷とをその考察の中心に据えるものだが、本年度は伊波の思想研究に力点を置いた。伊波の「日琉同祖論」に注目するところから出発し、1921年に柳田と出会い、その後に自己の思想を転換していく経緯を、先行研究もふまえながら追った。 初期の伊波は、沖縄の文化的価値を強調するあまり「日琉同祖論」によって、アイヌへの差別意識を生み出し、また、朝鮮人に対しても同様の意識から、日韓併合にも肯定的な態度をとった。もちろん伊波は日本(ヤマト)の沖縄に対する圧政を批判する意図を持ち、沖縄の「独自性」を明らかにしようという意図を持っていた。しかし、伊波の思想はそうした意図をいわば裏切りながら、かえってヤマトに排除されながら包摂されてしまう危うさを持ったことは否めない。 伊波はやがて、ソテツ地獄を経験し、また柳田と出会うことでその思想を転換していく。あからさまな差別意識は徐々に自己批判されていくが、柳田との思想的な共振がいっぽうで伊波の思想を規定し始めた。つまり、「南島」研究という枠組に伊波もすっぽりと収まりはじめるのである。柳田の民俗学を摂取することで、沖縄の独自性は日本の文化のプロトタイプを意味することになり、「日琉同祖論」と同じく沖縄が異質なものと位置づけられながらヤマト(あるいは日本文化)に包摂される。それは伊波の意図とは別に、帝国主義的な膨張の道をひた走る日本の「南島」へのまなざしとシンクロしてしまうのである。 伊波の思想をとりあえずここまで追った上で、来年度は柳田の伊波との出会いから、伊波へ柳田の思想がどういう影響を与えたのか、とくに「南島」研究について、具体的につめていきたい。また、さらに広く当時の思想状況と柳田、伊波との関連にまで踏み込んで考察していきたいと考えている。
|