2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18720025
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
高岸 輝 東京工業大学, 大学院社会理工学研究科, 助教授 (80416263)
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Keywords | 美術史 / 日本史 |
Research Abstract |
中世王権と絵所預による絵巻制作について、作例と絵師の両面から研究を行った。 第一に、室町時代後期の絵所預・土佐光信による「清水寺縁起絵巻」(東京国立博物館蔵)の制作背景に関する考察。同絵巻は永正十四年から十七年(一五一七〜二〇)頃に制作されたことが、『宣胤卿記』『実隆公記』等の同時代史料から判明する基準作で、詞書は中御門宣胤や三条西実隆らが記した。これら史料から、絵巻の制作は興福寺一乗院の良誉と兄の近衛尚通が深く関与したことが知られる。絵巻の主たる内容は奈良時代末の坂上田村麻呂(清水寺の創立に関与)の活躍を描くものであり、その制作目的は、近衛家と縁戚にある室町幕府第十一代将軍足利義植(一四六六〜一五二三)を伝説の将軍・田村麻呂に重ねて、その政権安定を祈願する内容であると結論付けた。 第二に鎌倉時代を代表する絵所預・高階隆兼の伝説形成について。隆兼は延慶二年(一三〇九)に「春日権現験記絵巻」を描いたことが同絵巻の附属目録に記されており、その後、元徳二年(一三三〇)までの活動が知られる。しかしその画派は途絶えたため、隆兼の高い技量と作品が賞賛されるようになるまで、およそ百年の時間を要した。足利義満は十五世紀の初頭に『源氏物語』に倣った絵合を開催した。ここで、南都の重宝「春日権現験記絵巻」が出品される。これ以降、隆兼の高い画技は京都において伝説となり、さらに百年を経た十六世紀前半には、絵所預・土佐光信が自らも隆兼と同様に神業を持つ絵所預であることを主張するようになる。こうした室町期の絵師伝説が絵合という絵巻の公開に伴って広く普及したことは、中世絵画史を考える上で重要である。
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