2006 Fiscal Year Annual Research Report
音楽と文学の境界問題として見るローベルト・シューマンの音楽とその音楽観
Project/Area Number |
18720076
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
佐藤 英 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (10409592)
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Keywords | 芸術諸学 / 音楽学 / 独文学 / ローベルト・シューマン |
Research Abstract |
本申請課題解明のため、今年度はオペラ『ゲノフェーファ』を研究の中心に据えたが、これと平行し、オラトリオ『楽園とペリ』の資料収集、シューマンの著作物のデジタル文書化も行った。ここでは2007年1〜3月刊行の論文について報告したい。 シューマンのオペラの検証にあたり、以下の2点からアプローチした。 第一に、1847-48年の当該作品の成立過程を踏査し、そこに認められる総合芸術としてのオペラを危うくする音楽優先の発想が、1820年代末から30年代初頭の音楽家シューマンのキャリア形成期に由来することを示した。この論証に際しては、マイアベーア批評を主に参照し、シューマンのオペラ観の中核を押えた。 第二に、シューマンが台本作成に関与したことに着目した。このオペラにおいては価値観の相対化が図られているが、これは作曲者がオペラを努めて穏当なものにしようとした結果である。この原因の解明は、シューマンのオペラ観を最終地点に見据えつつ、Fr.ヘッベルの原作とオペラ台本との比較検討、加えて19世紀前半のゲノフェーファの表象に影響を与えた聖母マリア信仰などの文化事情の考察を通じて行われた。この成果により、2006年1月に上梓された当該作品の音楽面に関する拙稿の考察結果と本研究との照合が可能となり、シューマンの関心が音楽と台本の双方において、叙情性の実現に向けられていることがわかった。この点を彼の音楽作品全体と音楽観から包括的に考察することは、今後の課題である。 ところで、本申請課題に取り組む最中、シューマンの処女論考の成立に関する全国学会発表の原稿を論文化する機会に恵まれた。当初この問題は申請課題とは別件と思われたが、「音楽と文学の境界問題」を念頭に置いての大幅な加筆・修正作業ゆえに、期せずしてここから申請課題解明への重要な手がかりを得ることが出来た。この「副産物」も今年度の特筆すべき成果として報告したい。
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