2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18720087
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
李 建志 県立広島大学, 人間文化学部, 助教授 (70329978)
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Keywords | アイヌ / 近代文学 / アイデンティティ / マイノリティ / ナショナリズム / 日本文学 / 生活文化 |
Research Abstract |
初年度である平成18年度は、基本的な資料の収集、これまでの研究文献の収集と読解を中心とした。結果、いままであまり知られていなかった俳人や同人誌レベルで作品を書いていた人々の名前と作品に出会えたことが成果としてあげられる。さらに、自らをアイヌであると自称しつつ小説を書いた数少ない作家のひとりである鳩沢佐美夫について、彼とともに文学活動をやっていた札幌市在住の須貝光夫氏にお会いし、鳩沢文学についての議論をかわしたことが大きな成果としてあげられるだろう。須貝氏は鳩沢の評伝『この魂をウタリに-鳩沢佐美夫の世界』をものした方だ。やはりほとんどのアイヌ系の作家が自らをアイヌだと自称しない理由は差別によるもので、アイヌであることが明らかにされてしまったため筆を折り姿を消してしまった作家がかなりの数に上ることが、須貝氏との交流を通して理解された。また、小笠原にいる西欧系移民の子孫の方々と東京でお会いする機会を得たが、彼等の話によると小、笠原が返還された1968年当時から、小笠原西欧系移民の子孫(先住島民ともいう)の方々は自ら「アイヌのようになってはいけない」と称していたという。もちろん、アイヌに対しては、現在の状況では一方的に差別されるだけではないと考えることも可能だが、根強い歴史的な記憶がこのような行動をとらせているし、そのような立場に立つことを他のマイノリティも恐れていることがわかる。前近代から近代へ移行する期間の日本によるアイヌ語政策の問題がわかってきた。江戸時代はアイヌに対して日本語を教えないという政策だったものが、明治期には日本語を教え、そのかわりアイヌの人々の生活圏を囲い込むような時代を経て、その後の日本同化へと進んでいったようだ。この時代的な流れのなかで、アイヌ近代文学成立に関して日本語(ヤマト=和人社会)との比較文学的考察が可能になるだろう。(約800字)
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