2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18720087
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
李 建志 Prefectural University of Hiroshima, 人間文化学部, 准教授 (70329978)
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Keywords | アイヌ / ナショナリズム / マイノリティ / 近代文学 / アイデンティティ |
Research Abstract |
本年度は今を生きるアイヌ作家である戸塚美波子氏をはじめ、1970年代のアイヌ文化運動の担い手と、その当時出版されていたアイヌの「アイヌネノアンアイヌ」という、アイヌの新聞を閲覧、研究することで、戦後のアイヌ作家がどのような問題意識を持って作品を書いていたかということを検証した。戦前の日本が「意識的多民族国家」であったのに対して、戦後の日本は「無意識の多民族国家」あるいは「単一民族幻想」の国であるが故、戦後のアイヌは自らをアイヌだと自称しにくい状況が続いた。そしてそれは、アイヌの運動=解放運動というものへとリンクしがちなものへと変わっていったといっていい。これは、戦前期 (明治) の近代化のための日本語習得と、その日本語による表現というものとは反対に、日本という「単一民族幻想」を持つ国に所属させられていることへの不満と、その傷痕を乗り越えるという運動へと転化していった。そこで、在日朝鮮人作家の運動や、部落と呼ばれる同和地区出身者の議論と親和性を帯びるわけである。問題は、在日朝鮮人文学の中にある、差別との戦いやアイデンティティ問題、そして自分の正体を明かすことのできない時代の空気への抵抗という問題系が、アイヌ文学全体に広がっていったといっていい。鳩沢佐美夫の文学作品はその原点といっていいだろう。李は鳩沢の友人だる盛氏から多くの鳩沢に関する文献 (生原稿や、その他の証書) を見せていただくことができ、アイヌ近代文学の中での戦後期を、鳩沢を中心に据えることでたてていくことを構想するに至った。それは、ほぼ同世代のアイヌ人作家である上西晴治と重なり合いながら、「単一民族幻想」を内側から食い破っていく思想であるといえよう。今後、アイヌ作家論をまとめ、明治以来のアイヌ作家たちの研究をまとめたいと考えている。
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