2007 Fiscal Year Annual Research Report
上中古漢語における機能語体系の通時変化のメカニズム-区域拡散の視点から-
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18720094
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松江 崇 Hokkaido University, 大学院・文学研究科, 准教授 (90344530)
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Keywords | 韻律文法 / 漢訳仏典言語 |
Research Abstract |
平成19年度の研究実績は、(1)馮勝利氏による韻律文法理論の批判的検討、(2)早期漢訳仏典にみえる特殊な文法現象の漢語口語との関係の検討、に分類される。 (1)の具体的内容は、近年、斯界の注目をあつめている馮勝利氏による韻律文法理論の観点からの歴史文法研究について、氏の理論では上中古漢語の言語事実を十全には説明できないこと、韻律文法の理論面でも重大な問題点が存在すること、などを指摘したことである(「馮勝利氏の韻律文法理論について-古漢語疑問代詞目的語語順変化についての馮説の検討-」)。このことによって、近年、馮氏によって強力に推進されている「上中古間における漢語の文法変化は韻律構造の変化によってひき起こされた」という大胆な仮説の信憑性が大きく失われることになったと言える。 (2)の具体的内容は、上中古間漢語文法史研究の重要資料である早期漢訳仏典にみられる特殊な文法現象をとりあげ、それらが漢語の口語とどのような関係にあるのかを検討したことである(「也談早期漢譯佛典語言在上中古語法史上的價値(稿)」)。すなわち(A)完結動詞「已」のアスペクト・マーカー的用法、 (B)人称代詞の複数表示、c疑問代詞の後置語順の三項目の文法現象について、(A)(B)は漢語の口語を一定程度反映したものではあるけれども、漢語口語を直接に反映したものとはみなし難く、漢語口語に実在した文法現象がいわば"拡大"された形で反映されたものであると指摘し、さらにcは原則として漢語の口語をそのまま反映したものとみなし得ることを指摘した。
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