2008 Fiscal Year Annual Research Report
東北シラビーム方言における拍の長短現象に関する音響学的研究
Project/Area Number |
18720123
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Research Institution | Iwaki Meisei University |
Principal Investigator |
大橋 純一 Iwaki Meisei University, 人文学部, 准教授 (20337273)
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Keywords | 方言学 / 音響音声学 / 東北方言 / シラビーム方言 / モーラ方言 / 特殊音 / 拍の長短現象 / 持続時間 |
Research Abstract |
日本語は開音節構造を基調とし、その音韻単位はモーラであるが、東北方言では、長音・撥音・促音の各特殊音が一拍分相当の単位として独立せず(シラビーム)、非等時拍となることが特徴である。本研究は、それらの実態を、地理的・年代的に、さらには音響掌的に究明することを目的とするものである。 本年度は、前2力年の反省を踏まえ、それの継続・発展として、秋田・山形・宮城・福島・新潟県、および北海道を対象に調査・分析を行った。具体的には、各地点・各話者について、当該特殊音の持続時間を音響分析によって定量化するとともに、発話者自身の拍意識を問い、その対照からシラビーム方言の現状を見きわめようとした。 その結果、(1) 東北方言では、特殊音が独立しないいわゆるシラビーム現象が今なお盛んであること、(2) ただしそれは、必ずしも特殊音が知覚されない (認識できない) ことを意味するわけではなく、よって具体音声を忠実に模す必要のある擬音語などは、その通り長呼されたりもすること、(3) さらに文発話においては、当該特殊音の欠落による寸詰まり感を、後接音の長短により、文全体として帳尻を合わそうとする向きさえあること、(4) それらを総合するならば、東北シラビーム方言は、従来の音韻現象 (特殊音が知覚されないがための短呼) から発音の簡便化等を志向した音声現象へと変質しつつあると見なされること等が明らかとなった。 従来、東北シラビーム方言に関しては、その特異性にもかかわらず、経験的に知覚される音声上の寸詰まり感を音響分析の見地から定量化し検証するということがさほど積極的にはなされてこなかった。さらに、それらの弁別的特徴や音韻論的な意味を当人の拍意識との対照から相互関連的に探るといったアプローチもほとんどなされてこなかった。本研究の成果は、そうした研究の行き及んでいない側面を補うとともに、上記のような新知見に恵まれたという点において意義があると考える。
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