2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18720160
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
三上 喜孝 山形大学, 人文学部, 助教授 (10331290)
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Keywords | 帳簿論 / 正倉院文書 / 木簡 / 漆紙文書 |
Research Abstract |
平成18年度は、日本古代の帳簿史料の収集・調査を行った。まず、奈良時代の正倉院文書の中の帳簿史料の事例を検討すべく、正倉院文書のマイクロフィルム紙焼き写真を購入し、活字からだけではわからない習書の情報を収集した。紙焼き写真は続々修古文書まで、現在データを整理中である。次に、木簡や墨書土器などの出土文字資料の実地調査をおこなった。いうまでもなく、木簡や墨書土器は日本古代の地方社会における帳簿史料の実態を考える上で格好の素材である。具体的な調査先として、奈良文化財研究所、秋田城跡調査事務所などにおいて各地から出土した文字資料の調査・検討をおこなった。 こうした検討をふまえて、具体的な文字資料に即した研究をおこなった。まず、近年注目されている韓国出土木簡と、日本の古代木簡との比較を行い、木簡の用字法や、帳簿の書式における共通性を指摘し、日韓比較木簡研究の可能性を模索した(「日韓木簡学の現状とその整理状況」「習書木簡からみた文字文化受容の問題」)。また、東北地方や北陸地方を中心に発見されている稲の品種名を書いた平安時代の付札木簡や、労働力編成について記した記録簡を再評価し、これらによる古代地域社会の稲作の実態の描述を試みた。あわせて、労働編成における記録簡(帳簿)の重要性を指摘した(「北陸・東北地域の古代稲作」『日本海域歴史大系古代篇2』所収)。また、古代の城柵として著名な秋田県大仙市の払田柵跡出土の漆紙文書のうち、隣保組織の存在を示す「保」と書かれた帳簿様文書に注目し、これが、中国のトルファン文書の書式と類似することや、この文書が、保の再編成が全国的に行われていた9世紀後半頃の状況をふまえて作成されたものであること、などを指摘した。あわせて、古代の隣保組織が、地縁によらない、同族的結合を優先した形でととのえられた可能性を述べた(「古代日本の隣保組織について」)。 検討の素材は多様であったが、帳簿史料を含む広範な文字資料の検討を通じて、古代日本における文書行政の実態にせまったという点においては、一定の成果を得たといえる。
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Research Products
(7 results)