Research Abstract |
本年度は,琵琶湖上の鳥猟秩序に関する史料調査と分析を実施した。研究実行者は,既に,琵琶湖東・南・西地域を対象とする研究を行っているため,本年度は未検討の湖北地域を主たる対象とした。当初予定していた湖北月出浦の史料は,諸藩の事情で本年度中の調査を控えたが,かわって,湖西西浜区有文書を調査する機会を得て,分析を行った。西浜村は湖西にありながら,湖北地域の湖上で鳥猟を行っていたとされる村である。 分析の結果,他地域と同様に,湖北地域においても,鳥猟を行う権利を有する村々は近世初頭から限定されており,かつ,その猟場は自村地先にとどまるものではないことが明らかになった。湖北地域の大部分は西浜村の猟場となっていたが,湖北東岸の彦根藩領の村々の地先では,彦根藩領村である早崎村が広域的に猟を行っていた。また,従事するいずれの村も鳥猟運上を領主へ,あるいは請所代をその地先領主へ上納しており,その上納の事実をもって他村の鳥猟参入排除の論理としていた。ただし,彦根藩領を除く湖北地域の鳥猟関係の運上は,他地域と異なり,近世中期に江戸幕府の命で一旦廃止されており,運上は,特定の湖水面を利用する対価というよりもむしろ,礼銭的な意味合いが強い。 この体制は幕末まで維持されるが,湖北地域でも,他地域と同様に近世後期に彦根藩の鳥札奉行の巡郷を受け入れており,これまでの研究成果と合わせると,彦根藩による鳥猟の「指揮権」は,琵琶全域に及んだと結論づけられる。 以上の分析の成果は,「重要文化的景観」選定にかかる研究会議で報告し,報告書中の一論文として執筆し,公表した。
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