2006 Fiscal Year Annual Research Report
中世フランスの写本メディアとナショナル・アイデンティティ形成に関する研究
Project/Area Number |
18720200
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
鈴木 道也 埼玉大学, 教育学部, 助教授 (50292636)
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Keywords | 歴史叙述 / フランス / ナショナル・アイデンティティ / 国家史 / 年代記 / 写本 / カペー朝 / サン・ドニ修道院 |
Research Abstract |
本研究は、中世における「フランス」という国のナショナル・アイデンティティ形成過程とその基本構造を、『フランス大年代記(Grandes Chroniques de France :以下GCFと略)』と呼ばれる王国年代記ならびに関連写本の分析を通じて明らかにしようとするものである。三年間の研究活動の初年度に位置する平成18年度は、先の研究課題「中世フランスの歴史叙述とナショナル・アイデンティティ形成に関する研究」(平成15-17年度若手研究B)の成果を踏まえ、1274年のGCF成立前後とその後一世紀間を主たる対象に、(1)GCF作成主体であったサン・ドニ修道院におけるGCF編纂以後の修史活動、(2)GCFに並行して編纂された世界年代記『歴史の鑑』との内容構成・普及過程、の検討を行った。その結果、(1)'サン=ドニ修道院では、俗語散文体という形態上の特徴を有していたGCF以後も、普遍年代記の記述を多く取り込み、複数の史書を参照した「国際的」で「物語」的なラテン語史書が優越していたこと、また(2)'GCFが王朝史を王国史として独立させているのに対して、『歴史の鑑』は、フランス王とその王国の歴史を、キリスト教的世界を構成する一有力諸侯とその地域史に位置づけ、王朝的正統性を皇帝シャルルマーニュとの系譜関係から証すことに力点があったことが明らかにあった。一連の事実は、初期「国家史」が、普遍的世界観と王朝史を組み合わせたものにならざるを得なかったことを示しており、王国史叙述におけるGCFの先進性があらためて明らかになったが、このGCFも歴史構成員をエリート層に限定する「王と諸侯のフランス史」であった。従って、アイデンティティ形成を主導する王権がいつ、どのようにして「(フランス)国民」を「発見」し、その動員の手段として歴史を用いるようになるのか、その時期と背景の解明が次の課題として明らかになった。
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