2008 Fiscal Year Annual Research Report
中世フランスの写本メディアとナショナル・アイデンティティ形成に関する研究
Project/Area Number |
18720200
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
鈴木 道也 Saitama University, 教育学部, 准教授 (50292636)
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Keywords | 歴史叙述 / フランス / 国際情報交換 / 国家史 / 年代記 / 写本 / カペー朝 / ヴァンサン・ド・ボーヴェ |
Research Abstract |
本研究は以下2点の解明を課題としている。(a)多様な歴史認識が交錯する中世社会にあって、権力体としての国家の成長と変容は「歴史家」たちの語りをどう変えたのか。(b)歴史叙述に携わる当時の知的エリートたちは、どのような意識と方法論をもってそれぞれの史書を組み立てていたのか。 本年度は、中世フランス王国で編纂された『王の物語』(あるいは『フランス大年代記』)を中心的な史料とし、神話的世界観とキリスト教的世界観が混交する初期中世から王国年代記が生み出されてくる過程の解明を目指した。『王の物語』は、その冒頭にフランク人のトロイア起源神話を置いているが、王朝神話としてトロイア起源神話が選択された背景を、『歴史十書』から『王の物語』に至る途上で編まれた数多くの史書(具体的には、(1)『偽フレデガリウス年代記』、(2)編者不詳『フランク人の史書』、(3)エモワン・ド・フルリ『フランク人の歴史』)、そして『王の物語』の祖型をなす四点の歴史書集成((1)11〜12世紀 : サン・ジェルマン・デ・プレ修道院編ラテン語年代記集成[B.N.latin. 12711]、(2)13世紀初め : サン・ドニ修道院編ラテン語年代記集成A[Vatican, Reg. lat. 550]、(3)13世紀前半 : 『シャンティイ年代記』[Chantilly, HS. 869]、(4)1250年頃 : サン・ドニ修道院編ラテン語年代記集成B[B.N.Iat. 5925])の系譜関係分析によって考察した結果、メロヴィング王朝史を「神意ではなく人意」によって織りなされる王朝史話として描き出そうとするカペー朝の王権観が明らかとなった。
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