Research Abstract |
2007年8月9〜30日までロシア連邦カムチャツカ地方において現地調査を行った。調査目的は,20世紀のカムチャツカ半島における先住民女性(主としてコリャーク,エヴェン)による「伝統的」な皮革加工技術の様態を明らかにするとと,そうした技術の歴史的な展開を明らかにすることにある。前者の課題については,V.ペトラシェヴァ氏(ロシア科学アカデミー)の協力を得て,文献史料の読解や聞き取り調査とともに,民具資料の物質文化論的な観点からの調査に力点をおき,道具の形態学的特徴,使用痕分析,組成と運用方法などに関わるデータ収集を行った。 後者については,ロシア国立カムチャツカ大学のA.V.プタシンスキー教授の協力を得て,カムチャツカ半島北部における古コリャーク文化期(約5〜17世紀)の石製掻器の使用法を,石器使用痕分析をもちいて明らかにした。その結果,18世紀〜現在の先住民によって広く使用されてきている「パレオアジア型」とよばれるスクレイパーの起源を考えるうえで重要な手がかりが得られた。また,カムチャツカ半島南東部のナルィチェヴォ9遺跡の発掘調査では,15〜17世紀に位置づけられる竪穴住居埋土から出土した掻器について使用痕分析を行い,それが皮革加工に用いられたことに加えて,「パレオアジア型」に類する操作方法がとられていたことを明らかにした。 さらに,皮革加工具の使用と形態という観点からの比較研究の対象として,日本列島内における研究も行った。ひとつは,青森県むつ市江豚沢(ふぐさわ)遺跡の発掘調査で,2007年9月1日〜9日に実施した。本年度は試掘のため遺物の出土はほとんどなかったが,新たな竪穴住居跡が複数確認され,次年度以降の調査にもつながる成果が得られた。また,本研究のなかで民族誌情報をもとに構築されつつある掻器の運動方向に関わる解釈モデルをもちいて,北海道の旧石器時代の掻器についての検討も行った。
|