Research Abstract |
本研究は,チンギス・ハーンが即位800周年である2006年に照準を合わせて,モンゴル国,ロシア連邦,中華人民共和国の3カ国に分断して居住するモンゴルの人々が,マイノリティとしてのモンゴル人たちは、国家との微妙な緊張関係をはらみながら、いかにチンギズの祝祭を企図しているかを明らかにすることを目的とした.また.日本や韓国においてもチンギス・ブームは,白熱しており,国家や民族を超えて増殖するこの現象の諸相を解明することを目的とした。 初年度においては,実績を出すというよりも,むしろ調査の全精力を傾けたといえる.つまり,夏休みを利用して,モンゴル国,中華人民共和国,ロシア連邦ブリヤート共和国において,それぞれ1ヶ月半,2週間,10日間の合計約二ヶ月に及ぶ調査を行った. モンゴル国においては,2回の調査を行ったが,まずは,堺屋太一氏の主催するチンギス・ハーン即位800周年記念ツアーに同行し,聞き取り調査を行った.2回目の調査においては,モンゴル国で催されているイベント行事の観察や,人々に対する聞き取り調査を行った,また,ロシアにおいては,同様の調査を試みたが,少数民族政策が厳しくなった結果,ロシア居住のモンゴル系住民のチンギス・ハーン崇拝は,表向きには行われていない事情が明らかになった. 中国においては,チンギス・ハーンのテーマ・パークが建設されるなど,漢民族によって,観光資源としてチンギスが利用されている現状を調査した. これらの調査に関して,論文としての実績はないものの,学会.シンポジウムなどにおいて,関連するテーマで,3回の発表を行ったことは,本研究の今年度の成果だといえよう.まずは,8月にウランバートルで行われた即位800周年記念・国際モンゴル学者会議において,発表を行った.また,12月には,ウランバートルのモンゴル教育大学が主催したジンポジウムにおいて,発表を行った.さらに,本年4月には,大阪で催された成吉思汗祭礼におけるシンポジウムにおいて「文化資源として利用されるチンギス・ハーン:同化・象徴的殺害・忘却-日本とロシアと中国の比較から」というタイトルで発表を行った. 発表論文としては,チンギス・ハーン・ナショナリズムに掬い取られないモンゴルの少数民族における宗教現象を扱ったものが中国社会科学院の「世界民族」誌に掲載されたものがある.
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