2006 Fiscal Year Annual Research Report
旧ユーゴ国際刑事裁判所(ICTY)の終焉と国際刑事法に与えた影響
Project/Area Number |
18730030
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
稲角 光恵 金沢大学, 法学部, 助教授 (60313623)
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Keywords | 旧ユーゴ国際刑事裁判所 / 国際刑事法 / 人道に対する罪 |
Research Abstract |
概ね計画に基づき研究を進めることができたが、ミロシェビッチ被告の病死と事件終了にともないICTYにおける裁判予定が大きく変わったため、研究計画の変更を迫られた部分がある。同被告に関わる事件はICTYを象徴する事件であったが、予定されていた同事件判決を中心としてICTYの最終的な評価を試みることは困難となった。しかし、象徴的事件が判決なく終了したことは、閉廷間近なICTYを総合的に評価する上で、本研究のようにICTYが扱う他の事件が国際刑事法に与えた影響を分析し研究を進める意義が高まったとも言える。 その意味では、ICTYの最初の事件であるタジッチ事件の再評価と当該事件が国際刑事法に与えた影響がますます重視される。当該事件においては、第一に、ICTYの設立の正当性及び根拠に関する裁判所の判断が注目を集めが、この点は、裁判所の正当性及び管轄権を争う抗弁が他の新設の刑事裁判所でも被告人により提起されており、タジッチ事件の影響が見られる。 また、第二に、タジッチ事件では人道に対する罪との関係で紛争種類の区別及び武力紛争と犯罪との連関性が論点として注目を集めた。この点は、タジッチ事件に限定されるものではなく、ICTYは他の国際的な刑事裁判所に比べて人道に対する罪の訴追において重視されている。ICTYは、これまで定義が不明確であった人道に対する罪の処罰を数多く行うことにより国際刑事法の形成に寄与している。しかし、ICTY規程上の定義とルワンダ国際刑事裁判所や国際刑事裁判所(ICC)で採用されている人道に対する罪の定義では異なるため、ICTYが構築した先例の意義を疑問視する声もある。しかし、ICTYの判例を見るならば、定義の違いの影響よりも国際刑事法の構築に貢献した部分が数多く見られ、追従する他の国際裁判所に十分示唆に富んだ先例を構築していると評価されることを研究で明らかにした。
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