2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18730158
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
神林 龍 Hitotsubashi University, 経済研究所, 准教授 (40326004)
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Keywords | 解雇費用 / 裁判経験 / 労使関係 |
Research Abstract |
本研究の第一の目標は、全国的な裁判記録の閲覧を通じた解雇事件に関する全国的なデータベースの作成である。ここで採取されたデータおよび判例集から収集したケース・スタディ、さらに最高裁による事件票の特別集計を用いた実証的分析をもとに、『解雇規制の法と経済』を執筆し、昨年度日本評論社より出版した。本年度は、本書で判明した事実をもとに、日本における解雇規制の効果についてまとめた(「解雇規制」大橋勇雄編『労働需要』ミネルバ書房、近刊)。その際、日本における解雇規制が、暗黙のうちに労使コミュニケーションの正常化を促していた可能性を重視し、「日本の解雇規制の成り立ちに関する一考察」浜田宏一・大塚啓二郎・東郷賢編『日本の遺産(仮題)』ナカニシヤ出版、近刊、および「紛争解決制度と集団的コミュニケーション : 解雇紛争の視点から」鶴光太郎・水町勇一郎・樋口美雄編『労働市場改革』日本評論社、第9章、pp.213-233、2009年、「労使コミュニケーションの再構築に向けて」連合総研、ワーキングペーパー、2009年をまとめた。これらのなかで、日本の解雇規制は集団交渉を通じた雇用調整には効力が発揮されたものの、近年の人事管理の個別化の進展とともに、都道府県労働局の個別紛争相談窓口の開設、労働審判制度の開始など企業外での紛争処理制度の充実は、集団的コミュニケーションのインセンティブを著しく減じる可能性が指摘された。この結果、解雇を巡る個別紛争を解決するための社会規範を、従来の解雇権濫用法理が提示できるかは不確かで、さらなる研究の余地があることがわかった。
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