2006 Fiscal Year Annual Research Report
国際カルテルに対するリニエンシー制度の国際間協調運用に関する実験研究
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18730194
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Research Institution | Future University-Hakodate |
Principal Investigator |
川越 敏司 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 助教授 (80272277)
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Keywords | カルテル / 独占禁止法 / リニエンシー制度 / 国際協調 / 繰り返しゲーム / 多市場接触 |
Research Abstract |
わが国の独占禁止法改正においてリニエンシー制度が採用された。リニエンシー制度とは、カルテルを構成するメシバーがカルテルの事実を当局に密告した場合に罰則が減免される制度である。リニエンシー制度導入後、欧米を中心に大手独占企業の談合事実が次々と挙覚するなど、カルテル摘発・防止に大きな成果をあげている。 ところが、国家間でリニエンシー制度の運用形態が異なっている。他方、社会的・経済的に影響力の強い重要なカルテルは国家間にまたがって国際的な活動を行っている。したがって、国家間で異なるリニエンシー制度が採用されていると、ある国のリニエンシー制度の運用形態が他国のリニエンシー制度の効果を相殺してしまう危険性がある。また、国際的なカルテルに属する企業が他国でリニエンシーを申請した場合、その情報は多かれ少なかれ他国に漏洩して共有される。そのため、各国政府としては、自国内ではリニエンシー制度を採用せずにニリエンシー制度を採用している他国の情報にただ乗りするというインセンティブを考慮する必要がある。リニエシシー制度を採用すれば政府収入となりえる課徴金が減少するので、政府としてはカルテルの摘発が同様になされるのであれば、リニエンシー制度を採用しない方が好ましいからである。 このように、国際的に活動するカルテルに対してリニエンシー制度を効果的に運用するためには、上記のような他国の制度に対するただ乗り問題を回避する国際的な制度協調運用が必要になってくる。そこで、他国の制度に対するただ乗り問題がどの程度深刻なのか、またどのような制度の国際協調運用が国際カルテル摘発に対して有効であるかを分析した。 モデルでは、多市場接触における繰り返しゲーム理論の研究をサーベイした後、リニエンシー制度の分析に適した形に理論モデルを作成した。各政府は、伝統的な確率的摘発と罰則の賦課という制度と、それに加えてリニエンシー制度を採用できるものとして、その目的関数を(1)カルテルの防止、(2)カルテル摘発確率の増加、(3)課徴金増による収入最大化の3通りで検討した。検討の結果、(1)の場合、リニエンシー制度の導入はカルテル防止効果を十分発揮しないこと、(2)の場合は両国ともリニエンシー制度を採用することが政府間のゲームのナッシュ均衡になること、(3)の場合は、一方の国がリニエンシー制度を採用し、他方め国がそれにただ乗りすることがナッシュ均衡の1つになりえることが示された。この成果は、.現在国際的な学術雑誌に投稿・査読中である。今年度は、理論的研究に十分力を注いだため、予備的な実験しか行えなかった。次年度は、理論分析を生かして本実験を実施する。
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