2006 Fiscal Year Annual Research Report
グローバル経済下における政策課税の理論的基礎と制度設計に関する研究
Project/Area Number |
18730214
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
諸富 徹 京都大学, 大学院公共政策連携研究部, 助教授 (80303064)
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Keywords | 所得税 / 資本所得課税 / 二次元所得税 / 累進所得税 / 包括所得税 / 支出税 |
Research Abstract |
平成18度は、所得課税の中でも資本所得課税に絞って研究を進めた。当初の研究計画では、累進所得税の変容(特に累進税率のフラット化傾向)と所得税の再分配効果の検証を行う計画であった。この問題意識の背景としては、1980年代以降、先進国で一斉に所得税改革が行われ、課税ベースの拡大、累進性の緩和とそのフラット化が行われたからである。しかし、その後研究を進めていくうちに、所得税の再分配効果を考える上で、資本所得課税のあり方が重要な鍵を握っていることが分かってきた。その代表的な例が北欧の二元的所得税であり、同様の流れはオランダやドイツ、さらには金融所得一体課税が議論されている日本にも波及している。このように労働所得と金融所得を切り離した上で、金融所得を一体的に課税することが所得税制にもたらす影響という点に研究の焦点を絞って進めたのが本年度である。その結果、このような二元的所得税は完全な包括的所得税が実施できないという条件の下では、経済の効率性改善に資するとともに、所得税負担の公平性を回復し、税収を回復させる興味深い方途であるということが分かってきた。たしかに、理想的な包括的所得税と比べると二元的所得税は課税の公平性上問題があるが、とは言え、現実には理想的な包括的所得税の実施は困難である。この場合には、二元的所得税は次善のアプローチとして肯定的に評価する必要があると考えられる。今後は、この二元的所得税が所得税制の中でどう位置づけられるのかを検討していく必要がある。二元的所得税は所得税から支出税へ移行する世界的な流れの中の一里塚であるという評価もあれば、グローバル化の下で包括的所得税を別の形で生き残らせる方途であるとの評価も可能であろう。日本の税制改革の方向性を考えるためにも、平成19年度はこの点についてさらに研究を深めることにしたい。
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