2006 Fiscal Year Annual Research Report
内生的選好および社会意識の経済理論に基づく所得格差社会の動態についての研究
Project/Area Number |
18730219
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
堀 宣昭 九州大学, 大学院経済学研究院, 助教授 (50304720)
|
Keywords | マッチング / 情報の非対称性 / 教育の経済学 / 労働市場 |
Research Abstract |
平成18年度は、企業と労働者、教育機関と学生といったマッチングに関する理論的問題の分析を通じて、マッチングパターンに関する人々の社会意識のあり方が経済パフォーマンスにどのような影響を及ぼすのかを理論的に検討した。 "The Bright and Dark Sides of Names" 企業を労働者間のマッチングの場と考え、労働者間に情報の非対称性のある場合に、企業名が、優秀な労働者同士のマッチングのfocal pointとして機能する均衡と、企業名自体は無意味で、過去の企業パフォーマンスが、優秀な既存労働者のシグナルとして機能する均衡を比較した。企業名が機能する均衡の方が優秀な労働者間のマッチングが効率的に実現できるが、シグナルを発信する必要がないために全体として労働者の努力インセンティブが損なわれるという問題が発生する。このためどちらの均衡が効率的かは一概には言えなくなる。 "The Rank Order of Universities and Educational Investment" 大学と学生間のマッチングを考え、大学が序列化されている均衡とそうでない均衡を比較した。労働市場は個々の労働者のタイプは観察できないが、出身大学(どの大学とマッチしていたか)を確認できるとする。すると、優秀な学生ほど世間で言われる銘柄大学とマッチする、という社会意識が、自己拘束的なbelief、均衡としてサポートされる場合と、大学名自体には意味が存在しない均衡が実現する場合が考えられる。そしてそれぞれの均衡で政府が大学入学のため最低学力基準を導入した場合の効果を検証した。大学名に意味のない均衡では、最低学力基準が存在しない場合には、学生の教育投資のインセンティブは大きく低下する。これに対し、大学が序列化している均衡では、最低学力基準が存在しなくても、学生がマッチングの質を考慮して教育投資をある程度行うことになる。他方同程度の最低学力基準の場合には、大学名が序列化していない均衡の方が大学の進学に向けて教育投資を行う学生のインセンティブが高まる。また大学名が序列化した均衡の方が学生間の教育投資の分散が大きくなる。
|